子どもが性犯罪に遭うと 2
その週の土曜、私と娘は警察に呼び出される事になった。
現場検証と調書作成
ということだった。朝9時に実家親に車で送ってもらい、警察署へ。
挨拶後、早速警察の車で現場検証へ。まず、娘が最初に犯人の存在に気づいたと言う塾の前へ。夕方、帰宅しようとした娘は、自転車置き場のそばに、銀色自転車・坊主狩りの高校生を目撃。
そのあと、途中でつけられているのに気づく。
この段階で、娘は誰もいない自宅を避け、おじいちゃんやおばあちゃんのいる可能性のある家の方へ。男はたくみに道を変えながらも付いてきた様子で、実家の前、まさに家に入ろうとしたところで露出を行ったらしい。
その道筋を車に乗り、証言すればいいのか、くらいに考えていた私は甘かった。
要所要所で娘は車を降ろされ、自分がいたところ、犯人がいたところに立たされ、炎天下で写真を撮られる。
パトカーでこそ無いものの、あきらかに警察らしい車と、仰々しい雰囲気。静かな住宅街とはいえ、土曜は人通りも多く、道行く人は、みな何事かとこちらを見る。
娘は犯罪に巻き込まれましたと、町中にアピールしているようではないか。
犯人は未成年。もしもこれで逮捕され、同じように現場検証に立たされても、車から出ることなく行われるのではないのか?と思うと腹立たしい。
きりっと口を結んだまま何もしゃべらない娘を抱きかかえるようにして、再び警察へ。事件を再現すると言う。言われたとおり、娘に事件当時の服を着せ、現場で何が行われたのかを室内で再現。自転車と、女性らしい人形が用意されており、警官が犯人役になって証言させた。
私は「露出」としか聞いていなかったのだが、卑猥な言葉を聞かされ、
ズボン越しとはいえ、股間を触られたらしい。
徐々にそういうことがわかってきて、私は震えてきた。いや、証言する娘の方が恥辱や怒り、恐怖に苛まれた事だろう。いつもはきはきとして、元気な娘だが、急にぷいっと窓辺に歩いてゆき、窓の外を眺めてしまった。親の私さえ泣き出しそうなのに、まったくポーカーフェイスなのが余計につらい。
警察側も無理強いはできず、しばらく黙って見守る。私は、そっと彼女のそばに行き、肩を抱いて「もう少しだけがんばろう、か」と声をかけた。
娘が戻り、再現続行。当時着ていた服は人形に着せられ、なんとか再現は終わった。
ちょうどお昼、家に帰ったら、娘の好きなものを何でも食べさせてやろう。
なんならどこかにでかけて遊ばせてもいい。
わがまま、なんでもきいてやる! と思ったのだが、おまわりさんが
「それではこのあと調書を作成して、署名していただきます。午後、また来てください」
ちょっと待て。この警察署は、とんでもない田舎にあり、車無しでは行く事も不可能。
近所に飲食店さえない。父も午後は予定があるので送迎は無理だと怒り出し、行きはともかく帰りは警察が送ってくれる事を約束させてくれた。
「何でも好きなものを食べさせてやろう」と思ったのは父も同じらしく、おばあちゃんも呼んで一緒に娘の大好きな回転寿司へ。
母は、娘の前ではにこにこいつもどおりに振舞っていたが、
「家の前で、あんな現場検証なんかして。近所の人、みんな見てたわ。
警察はどっちの味方なんだ!」と泣いて怒っていた。
セカンドレイプ……。性犯罪の被害者が被害を届ける事が少なく結局泣き寝入りになることが多いということは知っていた。
しかし、それでは犯罪を助長するだけ。
ここまできたんだから、あともう少し。つらいけど、絶対犯人を追い詰めよう。
などと思った私はやはり甘かった。
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