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2006年6月 7日 (水)

篠原千花を悼む~テレプシコーラ~

篠原千花が亡くなった…らしい。いくらなんでも「ビル…から飛び…降」のあとに「りようとしたのを保護されたの♪」とは続かないだろう。東スポじゃあるまいし。また、完璧主義者の千花ちゃんが、半端なビルから飛んで助かるとも思えない。しっかり覚悟して、飛んだのだ。どっちにしろ、もう、あの美しい笑顔と、見事な踊りを見ることはないのだ。

ダ・ヴィンチの発売日をうっかり忘れ、今日仕事の途中コンビニで立ち読みしてそのことを知った。……涙腺が、おかしい。また仕事で歩いていって、本屋やコンビニを見つけると、またダ・ヴィンチを手にとってしまう。結局、買ってしまった。家に帰って夕食を済ませ、今PCの前に座って何か書こうと思うと、ようやく涙が溢れてきた。

漫画のキャラクターが死んで泣くなんて、大人になってからは無かった。

千花は、中学3年だったか。バレエ教室を営む母を持ち、美貌、身体的な条件に恵まれ、何よりも努力を怠らない少女だった。海外へのバレエ留学や進出を考え、小学生の頃から語学も学び、成績はトップ。バレリーナにとって一番大切な時を高校受験で失わないように、エスカレーター式の私立を選んだ。何事にも前向きで、強い子だった。あまりに完璧なのが災いしてか、中学ではいじめと思われる仕打ちを受けていたが、それを誰にも打ち明ける事が無かった。誇り高く、未来を見据えて、バレエにすべての情熱をかけていた千花。そのデビューは衝撃的。うまいだけでなく、あでやかな大輪の花を咲かせるその舞に、観客の誰もが魅了された。日本バレエ界の新星誕生!しかし、その舞台が悲劇の始まりであり、千花の最後の舞台となってしまった…

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著者:山岸 凉子
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このところは、千花の手術、リハビリ、繰り返される悲劇…で、千花の、こういう最期は十分予感された。が、本当にこの作者はすごいなあ…それまでも、精神が尋常でない人間の心理描写に長けた人だったが、千花の妹・六花の視点から、巧みに描いていく。直前のエピソードは、危篤になった祖母が、無意識のなかで千花の手を握ったと言う話。孫の脚を案じていた祖母の、奇跡的な行動に、千花はやる気を取り戻し、篠原一家はしばしの安堵に包まれる。そして…

彼女の心情を推し量るのは、難しい。が、自殺する人は、たしかに「まさか」というタイミングで実行してしまうものだ。六花も、家族もおばあちゃんの事は覚悟していたのだが、こんな……  今月号のラストは淡々として、それが余計にリアルさを増す。私はもちろんだが読者の多くは、小学生の頃から彼女の成長を見てきた。すばらしい子で、将来が本当に楽しみだった。

でも、誰も「もう踊らなくていい」って、言わなかった。

傷めたひざの手術に何千万ものお金をかけ、父も母も周囲がすべて、きっと治る、また踊れる、と励まし続けた。特に母親は同じく完璧主義者で、自分の果たせなかった夢をこの優れた長女に託し、世界で通用するプリマへの希望を、決して奪おうとはしなかった。

千花ほどの娘なら、バレエが踊れなくても、いくらもすばらしい道があったはずなのに。

一芸に秀でた人間を育てるには、いろいろなものを犠牲にしなくてはならない。昔、某スポーツ少女を育てる母親のスパルタ教育ぶりが「自分の欲望で子どもを犠牲にして」「友達と遊んだりする普通の子どもの生活を奪って」などと批判されていたが、どのように子どもを育てるか、これはある程度は親に任せるべきであろうと思う。のんびりのびのび育てるのも自由なら、世界の頂点を目指して一直線に育てるのも自由だ。自由に伴う責任を自覚している限り、どんな育児方法も非難されるいわれは無いと思う。だから、千花の母親を責めるつもりは無いのだが…

もう少し、彼女も肩から力を抜けばよかったのだ。

千花がすっかり気落ちし、「私、医者になろうかな。バレリーナのケガを直す医者が必要だと思う」などとつぶやいたとき、母親は、最近千花の成績ががた落ちになっていたのをあげつらい、今のあんたじゃそれも無理、と一蹴した。たしかにそれは正しいのだが、いっそ「それもいいかもね。じゃ、脚が動かせない今のうちに、世界一の名外科医を目指して勉強、頑張っておこうか」とにっこり笑っていたら。
少なくとも、千花に本当の絶望を感じさせる事は無かったと思う。

親にとって、子どもが自分の夢の通り、栄光の道を歩んでくれたらどんなにいいことかと思う。しかし、平凡でも、「無」になってしまうよりははるかにましだ。千恵子さん、気の毒に、あまりにすばらしい子に恵まれたばかりに、そんなことを身をもって知ってしまったわけだ。

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コメント

私は分野こそ違いますが古典日本舞踊の踊り手であり、二人の娘たちの親であります。私はこれまでの「テレプシコーラ」を読んで、踊り手としては千花ちゃんや六花ちゃんの苦しさや喜びの気持ちに一番共感したものですが、今回だけは親の立場でショックを受けてしまいました。もちろん漫画の主人公は六花ちゃんですから、その心理描写がこれから中心になっていくのだとは思いますが、篠原先生はこんなことになってこの先生きていけるんだろうか、お父さんは妻の完璧を目指すバレエ人生を呪ったりはしないのだろうか、と考え込んでしまいます。親は誰でも子どもの幸せだけを考えています。でも、万能の神ではないから間違えてしまうこともある。お母さんはもう少しゆるい目で娘たちを見てやることも可能だったかもしれないし、お父さんももっと強く「一つの世界にのめりこむことが危険だ」と諭してあげられたかも知れない。六花ちゃんの将来を思ううえでも、二親の絶望は気になるところです。
でも、正直、あのご両親もおじいさまやおばあさまがたも、夢のように素敵なご家族だったと思うのです。殊に、千花ちゃんと六花ちゃんとのバレエも含めた絆は羨ましいほどでした。「なぜ絶望しなければいけなかったの千花ちゃん」と思います。
ストーリーとしては面白くないのでしょうが、「飛び降り・・・たんだけど一命は取り留めた」としてほしいですよ。でも、山岸さんは一流のストーリーテラーだし、容赦ないだろうなあ。

投稿: 踊り屋 | 2006年6月19日 (月) 04時00分

踊り屋さん、ようこそ!「テレプシコーラ」は、親の立場に立つと、身につまされるストーリですね… 人もうらやむ理想的な一家に潜む落とし穴…。本当に、誰も悪くないのに、こんなことになってしまうなんて。家族に自殺された人は、どうあったって自分を責めてしまうものですが、もう、来月号が楽しみなような怖いような…おっしゃるとおり、ご両親の顔を見るのがつらいし、心配です。

投稿: 闇鍋奉行 | 2006年6月19日 (月) 06時53分

はじめまして。

こんな辛いことってありません。
千花ちゃんは大好きなキャラでした。
完璧主義で、小学生の頃から、ものわかりのよい、優等生。健気でした。
いろいろな苦境に陥っても「強い子だから」と周囲からも期待され、本当に辛かったのでしょうね・・・
自分でも、バレエへの情熱が強かった分、今の状況がとても辛かったはず。その上、
何千万もの手術費用。それでももう、プロのバレエリーナへは無理、自分を責めて、責めて・・追い詰められて飛び降りた・・
富樫先生が言っていた「六花に何か足りない」ってもしや、こういうことで、目覚めさせるってことでしょうか??
あまりにも残酷です。

私も、来月号にわずかながら期待しています。せめて命は・・・どうか神様!

すみません、書いていても気持ちが動揺し、支離滅裂で・・

投稿: りさ | 2006年6月28日 (水) 02時30分

りささん、ようこそ!千花ちゃん、本当にいろんな方に愛されていたんですね。…私だけではなかった~
本当に、次回が待たれますね。どんな展開でも、楽しみです。…というのも変かも…千花ちゃんも気になるけど、お母さんやお父さん、危篤の淵にあるおばあちゃん、事業に失敗して、でも新しい幸福を見つけている青山のおじいちゃん…なんか、いろいろ考えてしまうんです。そんなことを考えてしまうのも、「ただの漫画」に終わらせないほど、いろんな日常的な描写がとても丁寧で、本当に埼玉のどこかにこの家族が実在するような錯覚を、読者が感じてしまうからなんですよね…。私も、漫画のキャラクターのこういう展開に、予想していたのに動揺してしまいましたが、りささんのように、共感してくれる方がコメント残してくださって、良かったと思います。

投稿: 闇鍋奉行 | 2006年6月28日 (水) 21時01分

こんにちは。カリフォルニアに住んでいてダヴィンチは買えないんですが・・・あああやっぱり・・・。

ほんとうにショックです。千花ちゃんが踊る姿がもう一度みたかった。だけど、このショックが、私自身が子育てをしていて、まわりが見えなくなったとき、はっと冷静にさせてくれるかもしれないなと思いました。現実にこうした悲劇を起こさせないために、山岸先生はこんなストーリーを考えた・・・と思いたいです。

投稿: 山本美芽 | 2006年7月 7日 (金) 07時25分

ようこそ、山本美芽さん!まさか、外国から見に来て下さる方がいらっしゃるとは思わず、ネタバレしてしまいました…ごめんなさい。(しかも、高名な方なのですね…驚きました)
山岸 凉子さんの作品って、「戒め」のような内容が多いように思います。これを読んでどう生きるか、これは読者の課題ですね。

投稿: 闇鍋奉行 | 2006年7月 7日 (金) 22時50分

千花ちゃんの成長したプリマ姿が見れないなんて・・・
 今日,「ダ・ビンチ」誌を手に取り,テレプシ~の行く末を久々に見届けました。この作品を私は単行本の8巻までしか目をとおしていなかったので,千花ちゃんの韓国への生体靱移植治療渡航の話から,さあ,どうなったかな・・・と楽観的に雑誌を手にしたところ大きなショックを受けました! 8巻以降,ここまでの話は私にとって未知のものです。作者の山岸先生のことだから恐らくは,これでもかというくらい彼女を追い詰めるだろうなとは予想できたのですが,まさか10代の彼女が自身の生命の終わりを決めてしまうなんて!!
 現実,年3万人もの人々が自らが生命を閉じてしまうという問題もあり,千花ちゃんの自殺というのは漫画の中の話とくくりきれないものなのでしょう。しかし,バレエというある種夢の世界を描く作品でこの展開とは,正直ショックです。
 今週,待望の9巻が出るそうですが,それを読んでまた千花ちゃんの死のことを考えたいと思います。

投稿: スノードロップ | 2006年7月19日 (水) 19時10分

スノードロップさん、ようこそ!この作品の、情け容赦ないまでのリアルさ…千花ちゃん、本当にかわいそうですね…最近、少しずつ昔のテレプシコーラを読み返しているのですが、日常的な描写を通して、千花ちゃんがどんな子だったか、篠原家がどんなだったか、本当に丁寧に描かれていて、本当の人間のように、若くして散った千花ちゃんを惜しんでしまいます。もうすぐ9巻発行ですね。私は立ち読みで一応読んでいたのですが、改めて読むのが楽しみです。

投稿: 闇鍋奉行 | 2006年7月19日 (水) 20時18分

*舞姫の9巻,本日入手しました・・・

 更科さんのコメント拝読しました。今までのこと,振り返ってしまいますよね!
 千花ちゃんの死を知り,大変なショックを受けつつ「テレプシ~」の最新刊を読みました。六花ちゃんがクララ役を演じることで様々な壁を乗り越え成長していくのに対し,千花ちゃんの脚の快方は未だはっきりせず(ああ,でもダ・ビンチ最新号を読んでいるので辛い),姉妹の運命の明暗がくっきりと描かれております。
 結局,我々読者は千花ちゃんが無事踊りとおした場面をみることなく(コンクールにしてもくるみ・・・の舞台にしても)才能あふれる彼女に別れを告げなければならないのです。
 山岸先生の各人の性格描写が緻密なあまり,千花の辿る悲しい運命の行く末がとてもリアルさを増し我々に訴えかけているのでしょう。六花ちゃんを見守る富樫先生の「あの子の意識を根本から変える何か」の契機は千花ちゃんの死となるのでしょうか。
 人生って意図しないなにかが,大きくはたらくのですよね。はあ・・・
 更科さんのコメントを楽しみにしています。

投稿: スノードロップ | 2006年7月23日 (日) 05時40分

スノードロップさん、ようこそ!本当に、この六花ちゃんのクララが素晴らしいからこそ、千花ちゃんの踊りが、もっともっと見たかった…去年のくるみ割りを、最後まで踊ってほしかった…と思いますね。六花ちゃんの踊りに千花ちゃんの踊りがオーバーラップするシーンがありますが、右足の角度などがまるで違っているあたり、容赦がないというかなんというか(笑)いっそう、千花ちゃんが惜しまれます。

投稿: 闇鍋奉行 | 2006年7月23日 (日) 09時41分

初めてお便りします。
大人になってからですが、私もバレエをやっているので、この漫画には連載開始当初から随分とリキを入れて読んでいました。
指導者と生徒の関係や、バレエを習う子供たちのそれぞれの家庭の事情、生まれ持った体格や骨格や体質の違い、習い事をする際のメンタルな部分での難しさ、友達・仲間内での妬みや葛藤など、山岸先生の素晴らしい観点と描写。
金子先生が六花ちゃんの学校に来て『千花ちゃんが飛び降り・・・』と震えながら告げるシーンを読んだ時は、驚きのあまり立ち読みしていた書店でめまいがし、その後の数時間・・・そして数日間はそのことばかりを考えていました。
以前から妙なリアリティーを感じながら読んでいましたが、千花ちゃんの自殺以来は特に、本当に埼玉県のどこかに篠原一家があるようなそんな気がしてなりません。
春に第二部が開始されるのが、本当に待ち遠しいものですが、天真爛漫だった六花ちゃんは少し翳りを帯びた20歳前後の女性になっているのでしょうか・・・。
そして空美ちゃんの成長も気になります。
早く六花ちゃんに会いたいです。

投稿: ☆うさちゃん☆ | 2006年10月31日 (火) 20時20分

うさちゃんさん、ようこそ!私もあのシーンを読んだときには同じでした。未だに、ショックです。他の記事に書いた、アエラムックでも、萩尾望都さんも「千花ちゃんの死から立ち直れない」と語られてました。たくさんの人が、埼玉のどこかに実在する篠原家の、姉妹の成長を楽しみにしていたんですね…最近、中学生のいじめ・自殺のニュースも多く、そのたびに千花ちゃんを思い出します。私たちも、大切な人…友人や妹のような、あるいは娘のような存在だった千花ちゃんを失った心の傷を負っているのですね。
第二部も気にかかります。「アラベスク」のノンナと違い、まだまだダンサーとしては未熟で、このオリジナル作品「白鳥」も完璧には踊れなかった六花ちゃん。まだまだ手に汗握って成長を見守れるといいなあ~と思います!

投稿: 闇鍋奉行 | 2006年11月 1日 (水) 20時40分

先が見えない喪失感と挫折感、それに孤独感そうですね、周りの大人が皆「千花ちゃんはしかりしている」と思い込んでたから、そういった千花ちゃんの苦しみに気づいてやれなかったんでしょうね…まだ中学生だったのに。
ウィリになるかわりに、千花は六花の夢の中で踊っていたんでしょう。あの世とこの世の境目のトゥオネラで。どちらにせよ、せつない話ですが.....。

投稿: みそこ | 2007年1月23日 (火) 19時20分

みそこさん、ようこそ!
千花ちゃんの心情を思うとつらいですね。平凡な身にはまぶしいくらい、努力家でしっかりもので実力を持つ少女が、なんでこんなことに…
期待の的というのも大変ですね。ねたみそねみの対象にもなるし、山々の中でひとつ高く顔を出す富士山のように、誰に頼ることも出来ず一人で風雪に耐えなくてはいけないのですから。本来、いじめなんかをする連中や、数多くの困難などにも決して負けないような子だったのに、神様は時に残酷です。

投稿: 闇鍋奉行 | 2007年1月23日 (火) 23時24分

自殺に逃げちゃう子に誇り高さは感じないなあ

投稿: | 2010年7月18日 (日) 08時08分

名無しさんようこそ~
自殺は、いけませんね。
けれどこんな良い子がそこまで追い詰められていく過程を追い、それがどれだけの損失になるのかを描写した作品としては、出色だと思います。

投稿: 闇鍋奉行 | 2010年7月18日 (日) 08時31分

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受信: 2006年8月26日 (土) 04時09分

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