« 「まもる君が死んだ」~子供たちに読ませたい珠玉の短編~ | トップページ | それでもボクはやってない~娘が禁じられた遊びを~ »

2007年1月16日 (火)

「短編漫画は死んだ」~不登校息子の証言~

どういう流れだったか。
今日夕食を作りながら、息子と漫画談義になった。私は昨夜の興奮もあってか「まもる君が死んだ」は読んだことがあるか、と息子に問いかけた。たしか娘は読んだと言っていたが、息子は知らないという。私は大まかなあらすじを言って聞かせた。
「すげえな、それは」息子もまた、話だけで大いに興味を持ち、私の教科書に載せてもいいほど普遍的で今こそ蘇って欲しい作品だという主張に同意した。

この作品は私が漫画を読み始めたかどうかという時期に描かれたもののようだが、昔はどの少年・少女マンガでも人気の連載に、多くの短編が載っていたものだ。短期集中連載というのもあったし、16ページなどのなかで素晴らしいドラマを描いた秀作が数多くあった。長期連載を何本も抱えるような人気漫画家も大くの秀作短編を残しているし、これらは短編集や、長編物コミックスの穴埋めなどで読む機会が多い。が、さほどメジャーでないが短編できらりと光る作品を残した作家にはスポットが当たりにくく、読む機会もほとんどない。ああ、もったいない。

私の若い頃、小学館から「プチフラワー」という月刊少女マンガ雑誌があり、これは最初「読みきり専門」と謳っていた。私が読み始めた頃にはあの「風と木の詩」が少女コミックから移ってきたので、厳密には「専門」ではなかったが、風木を好むマニアックなファン層の鑑賞に十分耐える…どころか、ますます喜ばせる質の高いマンガ群がたっぷり。個性的な作品群に、私は酔った。日ごろ「お目々きらきら」と馬鹿にされがちな少女マンガの奥の深さを堪能できた。

マンガって、すごい!大人はなんで気づかないんだろ?

私は少女のあの頃のように頬を高潮させ、夕食をぱくつきながら熱く語った。
不登校息子は、そんな母の昔話を呆れるどころかうらやましそうに聞いている。
「まあ、今の読みきりっていうのを見てくれよ」と中座し、愛読の新感覚少年漫画雑誌を持ってきた。「今の読みきりは、つまんねえよ」
話を総合すると、今彼が読む雑誌の「読みきり」というのは、「あわよくば連載」を狙う、新人の「お試し版」みたいなもののようだ。「鋼の錬金術師」などのように、短編としても完成していて、長期ヒット間違いなし、という作品もあるだろうが、多くはありきたりな設定、あまり中身の無いような世界観、それでいて短編としても完結せず、要は人気が出れば連載です、よろしく、という中途半端なもの。どんな読者を想定しているのだろうか?正直、女の子が可愛ければ喜ぶだろう、とかいう程度に思われていないか?作家も編集者も読者をナメながら、「あわよくば連載」「あわよくばアニメ化…」程度の志で創ってないか。そして、当の読者もその程度の作品で満足してるんじゃないか…

なんて、生意気なことを感じてしまう。

マンガ、アニメ、ゲームなどが世界的に評価を得ている現代日本だが、残念ながら質自体は必ずしもあがっているとは言えない。いや、誰もが絵がうまいし、昔よりレベルがあがっているのだが、「志」なんていうものは感じられない。
今、売り上げに汲々とせずに「良いものを少年少女に」とがんばれる編集者や漫画家がどれだけいるんだろうか。また、そんな人たちが活躍できる場所が、どれだけあるだろうか。数字に振り回されて、より刺激的に安易に暴力や性描写にはしるばかりではないかとか、リスクを恐れ、コップの中の冒険程度の作品を量産してはいないかとか。

「今って、長期連載になって、アニメ化とかすれば勝ち、短いと『打ち切り』みたいな言われ方するみたいだね」と言えば、息子もわが意を得たりというように語る。「だらだら長きゃいいというもんでもないのに。1巻で完結くらいとかでもおもしろければいいのに」

ああ、昔のマンガ雑誌では、ほんの2、3ページのマンガにもぴりりとスパイスが効いていたよ。いろんな個性が、それぞれに描きたいものを描き、編集者もそれを汲み取って、一生懸命売り出していた。マンガの可能性を、どんどん拡げていった。
そういうと、息子は本当にうらやましがる。
「いいよな。マンガのたいていの事は手塚治虫がやっちゃってるし、今何か新しいことをしようとしても、みんな先人がやっちゃってるんだ。俺らのやれることはないんじゃないかと思うよ」

息子は、マンガ好きの私のせいでいろいろなものに触れられているが、一方で「自分(たち世代)の開拓できる分野は無い」と絶望しているようだ。いや、そうではないと思うので、息子たち若い世代にもいろいろがんばってほしいことではあるが。

でもまあ、「マンガやアニメやゲーム」しか知らない人間には新しい発想はできないのは間違いない。今の読みきりがつまらないのも、若い作者がいかにもそういうものしか知らない風なのが問題だろう。手塚治虫は、20年も前に亡くなった。時空を超えてさまざまな想像力、考察力を見せた大天才だが、現実の21世紀を生きることはできないのだ。この世界を見ることも、今のマンガを描くことも、読むことも。

いろんな意味で手塚治虫に嫉妬されるような人間がたくさん出て欲しい。もちろん、息子にも期待する。

|

« 「まもる君が死んだ」~子供たちに読ませたい珠玉の短編~ | トップページ | それでもボクはやってない~娘が禁じられた遊びを~ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「まもる君が死んだ」~子供たちに読ませたい珠玉の短編~ | トップページ | それでもボクはやってない~娘が禁じられた遊びを~ »