「まもる君が死んだ」~子供たちに読ませたい珠玉の短編~
前の日記のタイトルでつい触発されてしまった。
「まもる君が死んだ」とは、に少女漫画家の樹村みのりさんが描いた初期の短編漫画である。私が読んだのは、80年代に出された文春ビジュアル文庫の中であるが、いじめ、自殺などで揺れる21世紀の今になって、さらに輝けるのではないかと思える名作だ。
中学生の「まもる君」が行方不明になった。川辺に学生かばんを残して。
6~70年代の町工場の立ち並ぶ下町が舞台。戦後から高度成長時代への過渡期を思わせる町並みだ。空はどんよりと煙に染まり、川は排水で汚れている。
「まもる君が死んだ」と、川辺には近所の人や同級生、先生などが集まり、川底の捜索を見守っている。
「まもる君」とはどういう少年だったのか。
警察が、そこに来た人々に質問して回る。母親は売春をしているようであり家庭は父親が誰だかわからないような子供たちにあふれ貧困。まもる君はその長子。学校の集金は遅れがちだし、いつも薄汚かった。ろくに家にも帰らない母親を近所の人はうわさのたねにしていたし、学校の先生方も問題児扱い。そんなことが、証言から浮かび上がる。
が、証言者たちの心は、証言とは裏腹に「なぜあの時自分は助けてやれなかったのだろう」という悔恨であふれる。まもる君は、いつも弟妹や母をかばい、どうしようもない現実に直面しながらいつも笑顔でいたのに。最後に、ずっと捜索活動を見守っていた同級生の少女に質問が来る。
「まもる君は、どんな子だった?」
このときの、少女の心理描写が秀逸である。彼女もまた、まもる君を傷つけた記憶があった。誰もが馬鹿にし、汚いと言っていたから。みんな、まもる君を嫌っていたから。
少女は証言した。まもる君は「いやな子」だったと。
その証言のさなか、川底で何かが発見される。
その時、少女の心に変化が現れる。
そして…
あとは作品を読んで…と言いたいところだが、現在それを読むのは難しいようだ。
樹村みのりさんは、私くらいの年の少女マンガファンには懐かしい方で、独特のしっかりした描線と、ほかにない濃い内容の作品で、人気長編ヒット作こそ無いものの、実力は24年組の他の皆さんになんら劣ることなく、素晴らしかった記憶がある。題材が普遍的なので、「少女マンガ」のワクにとらわれることなく活動する場があれば、どれだけの名作を紡いだかわからない。私が樹村さんの作品に触れた最後は、「プチフラワー」で、それも未完の文字で締めくくられた。ええーっ!と驚いたが、その後私も漫画読みから外れたせいかどうか、活動している様子は聞くことが無い。私も当時大ファンというほどでもなかったので、今手元で見られるのは文春文庫と、昔の「エロイカより愛をこめて」でデパート店員さんを描いているシーンくらいだ。
が、今「まもる君が死んだ」を思い返すと、なんか、無性に読み返したくなる。アニメ化やゲーム化でがんがん稼ぐ漫画も素晴らしかろうが、日本の漫画は、本当はこんな表現もあることが素晴らしいのだ。学校で「命の大切さを」と教育するなら、ぜひこの作品を教材に。そうでなくても、今の大人と子供が読もうと思えばすぐに手に取れるように。
そう願ってやまないので、復刊どっとコムも貼っておく。
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