21世紀を見る漫画~機動警察パトレイバーを見直そう
今の刑法は、始めに「動機ありき」である。
金品を奪おうとしたとか、憎しみを晴らそうとしたとか、犯罪には必ず動機があり、極端に利己的に行動したために生まれるのが犯罪、ということになっているらしい。
おかげで「不可解な犯罪」が解析できないし、裁けない。犯人に何の利益ももたらさない、むしろ不利益になるような犯罪を説明するのに、あれこれと加害者と被害者の関係などを探り、なんとか被害者の非を探そうとしたり、犯人の精神的な欠陥や、悪影響を及ぼすものを探そうとする。その結果、凶悪犯罪もきちんと裁けなくなることも多い。
「手段のためなら目的を選ばない」
…もちろん、通常は「目的のためなら手段を選ばない」という犯罪者の気質を表す言葉であるが、この言葉を見たのははるか20年近く前のコミック「機動警察パトレイバー」だ。
バブル時代に描かれた、1999年近未来コミック。たったの10年後を予測しながらSFを描くというのは結構難しいと思うのだが、アニメ監督や声優、漫画家などが集った「ヘッドギア」はそれに挑んだ。アニメは実に秀逸で、近未来アクションとして、人間ドラマとして大人の鑑賞に耐えるアニメーション作品と、大変評価が高い。しかし、ゆうきまさみ氏の描いたコミック版も、絶品だ。
鬼才押井守は、昭和の軌跡を髣髴させるようなエピソードを盛り込みながら、近未来を描いた。
一方ゆうきまさみは、つかみどころの無い犯罪者・内海課長を闊達に描いた。いつも笑顔を絶やさないし、「ぼかあ人の血を見るのはイヤなんだ」という。全編通じて「悪意」というものをさほど感じさせない男で、大変な能力を持ってはいるが、子どものように無邪気である。内海とバド、正体の見えない敵を、主人公野明は「遊んでいるような…」と表現した。さらに、「手段のためなら目的を選ばない」だ。仮にも大企業に身を置く立場。会社の潤沢な資金や人材などを利用するのに、当然会社に利益をもたらすようなことをほのめかすのだが、目的はあくまでも「遊び」である。
理解できない異常犯罪を考えるとき、そういう分析をしたほうがよいこともあるのではないか。脳髄の異常に発達した人類は、生殖以外の性、極端に利己的な犯罪行為などを行うようになったが、この21世紀に入る頃には不可解な、誰も何もトクをしないようなパフォーマンス的な犯罪が目立ち始める。迷惑この上ないが、本人は「やりたかったから」としか言いようが無いのである。
そのパトレイバーが、パチンコになってしまった。嘆く私を息子は「まあ、これでいろんな人に再評価されれば…」と慰める。
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