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2007年6月16日 (土)

アルカサル~王城 24年目の堂々完結!

今私の手元にある1巻は、初版が「昭和60年」とある。

最終巻の第12巻は、「平成6年」だ。

続きを待って待って、ようやく今日、「プリンセスゴールド」誌上で「アルカサル~王城」が完結した。

どれだけ苦しい思いで描かれたのだろうかと、まずは青池保子先生にありがとう、お疲れ様、と声をかけたい(届きはしないだろうケド)。これだけ愛し、掘り下げた人物が、あの絶頂から、絶望のどん底に陥る完結編前編。正直、「いや、こんなに描かなくても…大河ドラマの『太閤記』みたく、このあといいことなし!の人のドラマを適当に夢のようなハッピーエンドでお茶を濁しても良かったんじゃ……」と思ってしまった。そのくらい、辛く難解な、そして「ええええ?」という展開だった。

「えええええ?」な分、さらっと駆け抜けた主人公ドン・ペドロの死の瞬間は、きっと後半に持ち越されるのだろうとは思った。

それにしても、青池先生の律儀さよ。ドン・ペドロという一人の人物を深く掘り下げたけれど、ただの伝記やファミリードラマでは絶対に飽き足らない。一人の王族が、どのように生き、歴史にどれだけのことをしたのか、それを本当に描きたかったのだと思った。物語は主人公の死後、子や孫の代にたった200ページで動く。どうしても説明っぽいページが続くし、読者には「誰?」という人が大勢出てくる。ポルトガル性悪王妃・テリェスはかなりの存在感で、本気で描けば物語の流れも変えかねない人だと思うが、さらっと…本当にさらっと進む。うわあ、この人だけで200ページくらいは読みたかったなあ。

後半の要は、ドン・ペドロの次女コンスタンシアが握る。誕生時のエピソードのほかはさほどそれほど重要人物のように描いていなかったのがすごい。姉の後ろで無邪気に笑っていた少女が、父の無念を晴らすべく異国で成長し、女王として祖国に帰還するシーンはもう。

そして、複雑な歴史物語に頭がこんがらがっていたところに、エンリケの妹・カタリナが精彩を放つ。私は35年くらい「青池保子」作品を読んでいる気がするが、「イブの息子たち」「エロイカより愛をこめて」と、女は化け物か何かという描き方しかしない作品が続いたところでこの「アルカサル」は、実に女性心理にも肉迫している珍しい作品になっている。ヒロインのマリアの苦悩と一途な愛、ペドロの母・マリア母大后の屈折、ペドロの正妻でありながらあのような生き方、死に方しかできなかったブランシュ王妃の悲劇…王家に生まれた姫君や、権力者の寵愛を糧に生きる女性たちがどのように考え、生きるものだったのかと、この作品で知った。このあたりは創作も多いのだろうが大きな見所だ。そうでなくては、漫画を読む価値が無い。

アラゴン王やナバーラ王、ポルトガル王の話題もおもしろかった。儀式王は、意外と長生きしたんだなあ。彼の娘にしては愛くるしく育ったレオノーラ王女、複雑な政治のせいでめまぐるしく婚約者が変わり、ようやく落ち着いたと思ったら……まことにお姫様は大変だ。そしてブス姫・ホアナ!なんとなく気になるキャラクターであったが、……めでたし。

現実は非常に厳しく、完結編は延々愛すべきキャラクターたちの最期を見せられるようなことになった。まあ、どっちにしろ中世の実在の人物なので絶対に死んでいるのだし、とにかくラストを見ないことには関連の書籍も読めないわぁ!で、幾星霜。ようやく自分の封印が解けた。24年。ネタバレを怖がるには長すぎる。中世なら軽く子どもの2,3人もこしらえて政争に使っているくらいの年数じゃないか……長かった。

それから…もしかしたらコミックス未収録の中にあるのかもしれないけれど、

マリア母大后さまはどうしたのだろう。

あんなことやこんなことがあって、表向きは父ポルトガル王の手により処刑だが、実は幽閉状態で…と、弟王を困らせていたのだが。完結編で登場した若き王・フェルナンド1世は、その負の遺産を受け継いでいる様子も無かったし。夫も憎けりゃ息子も憎い、地獄の底にいるマリア様、結構大好きなのでまだまだ期待していたのだけど。

そして、カスティリア王ドン・ペドロ。

完結編前編で、国のために敗北を選んだシーン。血気盛んな若き国王を愛した読者の私だが、宿敵・エンリケへの執着が無かったはずは無いのに、国が外国に蹂躙されるよりはとエンリケに勝ちを譲り、逃走し、追い詰められ。

あまりそのあたりは詳しく描かれておらず、読者の想像に任せられているのだが。

立派な国王であった。

本当に、国王であったと思えた。正当な血統でありながら決して恵まれた家庭環境ではなく、孤独の底から何度も這い上がった王。謀略にあい、死を受け入れるまで立派な姿であった。カタリナや強欲な(もはや枕詞)テリョと違い、その魂は現世をさまようことなく、まっすぐに昇天したという。

王の心の安らかであることを願う。  全然関係ない国の片隅から。

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