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2007年8月 1日 (水)

マリラになれない私~息子今夏の大暴れ~

アン・シャーリーは、エキセントリックな子どもであった。

これまで不幸で、孤独な生い立ちだったせいか、想像の翼を広げ、心の中にしかいない友を作り、いつか本当の友を得ることや、物語の中のお姫様のようなドラマチックな世界を夢見ていた。

そんな彼女がこういうせりふを言ったのを、アニメで見て印象的だった。友達と行くはじめてのハイキング。これまで夢の世界の食べ物だった「アイスクリーム」が振舞われるという。ところがそのハイキング当日、大事なブローチを紛失した養い親のマリラに問い詰められ、「白状するまで部屋を出さない」と言い渡されたときだ。
たしか、彼女はこんなことを言った。

「いいえ、行かなくてはならないの!私はどーうしても、アイスクリームを食べなくてはいけないわ!」

こういうタイプの子は、しばしば「私はとてもこれをしたい」を「私はこれをしなくてはいけない」と表現する。

アスペルガー診断中の我が息子は、そういう子である。
これまでもネットゲームや友達づきあいを至上のものとし、本来自分がやるべきことを完全否定してきた息子。今、彼は「学校で、日記を書くように言われたから」と言う理由で深夜…どころか朝までパソコンをいじっている。
部屋を明るくされ、テレビでらきすたなどの音声が流れ、娘も釣られて夜更かしするし、このところ激務で休み無し、しかし休まなくては体を壊す…と危機感を持つ私は眠れない。で、「もう寝なさい」というと、これが衝突の原因になる。
「これは宿題なんだよ!やらなきゃいけないんだよ!日記ってのは夜書くもんだろう????」と、窓際で大声で叫ぶ。
丑三つ時である。
「近所迷惑だから」といさめると
「はぁ??????俺の方が(邪魔されて)迷惑だし」ととことん正当性を主張し、結局私の寝室の引き戸を家具を剥いだ木材でがんがん叩き、破壊した。
…その木材、みんなで作った手作り家具のものなのに……
だが、息子に言わせれば、全部悪いアンタのせいで、俺はここまでしなくてはいけないんだ、という。そのあとアニメを大音量でがんがん流し、明かりをこうこうと点け、私や近所の人の安眠を妨げたのも、すべて邪魔をする母のせいだという。

日記を、毎日必ず深夜に書かなくてはいけないという決まりは平安時代の昔からなく、学校側だって家族や近隣に迷惑をかけ、昼夜逆転の生活をしてでもパソコンで日記を書きなさいと言ったものではないだろうと思う。まして、息子の「日記」の大半は、エルフ耳の美少女の絵なのだ。
「美少女の絵を毎日深夜にどんな家族の妨害にあっても書き上げなさい」なんていう学校があるだろうか。
しかし、息子にとってはそれが至上命令であり、義務なのである。「自分の欲求」が神の指令なのだ。したがって、もう寝なさいだの早くお風呂に入りなさいだの言う親は足蹴にして当然!なのだ。
ついでに、夜更かしして朝寝して、昼に起きたあとは、かつての不登校友達との交流を「しなくてはならない」ので、部屋に散らかったごみを片付けるとか、自分がやりたいと言って始めた通信教育などしているヒマがない、という。玄関にまでごみを散らかされ、片付けろというが、聞かない。ついでに、私が片付けたら大暴れする。これも、何か本人の「神の指令」に反することをした罰だというのだ。
そして夜、「日記を書かなくてはいけない」ので、深夜帰って食事を作り、ようやくPCに向かおうとした私と衝突した。私も、早くやるべきことをやってとっとと「眠らなくてはならない」。息子も、「書かなくてはいけない」。衝突して、殴られた。
打撲自体は、それほど重くは無い。息子も手加減しているようだが、しっかり「こんなに物分りが悪い親は殺すしかないな」と言った。
頭、鼻、腕、腰などに軽い打撲で、この年のせいかじわじわ痛みと怒りがやってくる。…こんな思考回路の人間を、このまま成人させちゃまずい。

「男の子はどこにいるんですか?」とアンに心無い言葉をはいたマリラ・カスバートゥは、このろくにしつけされておらず、夜のお祈りもしたことがない破天荒な娘アンにしっかり家事をしこみ、教育を与え、どこに出しても恥ずかしくないレディ、そして才女に育て上げた。マリラとマシュウ兄妹は、理想の養い親である。あの頃アニメに夢中になった私は大人になり、子供を生んで、ある意味自分そっくりの困った性質を持つ息子にノイローゼ状態になったのだが、自分の親に会ったとき以上に、「赤毛のアン」の懐かしいアニメをケーブルテレビで見て、泣いた。ごきげんよう、マリラ、マシュウ。自分には永遠になれそうにないような、素晴らしいアンの、そして私の養い親たち!

それにアンが女の子でよかった。かんしゃく持ちのアンは、リンド夫人にひどいことを言われたとき、足で床を踏み鳴らしてぎゃんぎゃんと抗議をしたが、うちの息子なんざ壁に穴を開け、ドアを破壊し、母親を殴り踏みつけ、ご近所を毎夏不眠にする。

もしもアンが男の子で1ダースもいたら、グリーンゲイブルズはたちまち廃墟と化していただろう。1ダースの男アンよりも、わしゃあアン、お前の方がいい、いいかい、1ダースの男アンよりもだよ。

である。

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コメント

こんばんは。
色々大変そうですね・・・
うちにも似たようなのが一人います。
息子さんより親の安全と心身の健康が第一ですよ。
あらゆるものを無視してでも、休養してくださいね。

投稿: mimiaka | 2007年8月 2日 (木) 00時24分

何だかわかるなぁ…と読ませていただきました。
アスペの息子は暴力をふるうことはありませんが、物には結構当たります。壊すまではいかないのですが。
アスペの診断が出るまで、なんでそういう思考になるのか私の方が理解できず、随分ぶつかり合いました。
確かに息子が1ダースもいたら… 考えたくないですわ(笑

お体、大丈夫ですか?
このブログの文章の影でどんな思いをされているか、勝手に想像して頭の下がる思いです。
ご自身を大事にしてください。

投稿: ぶどう | 2007年8月 2日 (木) 16時23分

mimiakaさん、ようこそ~!貴ブログも少しですがお邪魔させていただきました。またゆっくり拝見したいですが、悩んでいるのは自分だけではないのですね。
私もいろいろありますが、息子の状態も私の状態も、昨年、一昨年の方がよほど大変でした。これでも今はうそのようにシアワセだったりします…。ブログなんか書けるだけ、元気なんじゃないかな~って思います。
夏休み、異常な夜更かしをする息子と大立ち回りをするのは、もはや年中行事……ご近所の皆さんの方が大変かもしれません。
暴力をふるうアスペ、はどうやら私の父方の血筋のようです。父方の親戚筋のお嫁さんは、皆大変なんです………

投稿: 闇鍋奉行 | 2007年8月 2日 (木) 23時35分

ぶどうさん、ようこそ~!
私も多分アスペなので、意外と息子の思考はわかってしまうのですが、自分(そして自殺した弟)と同じ失敗はさせたくない、とがんばってしまってこういう結果になるようです。同レベル、ということもあるでしょうが……orz
アスペでない人がアスペの子を扱うというのも、きっと難しいものなのでしょう。私も今まで生きてきて「何、このヘンな人!」と言われたことが数知れないです。でもこういう特殊な思考回路や極端な係数(『バカの壁』より)を持った人間なのだと理解してもらえれば、あるいはそういう人間がやりやすい環境にあれば、意外といろいろ能力を発揮できて、生きる道もあるものなので、ぜひここで書かれる馬鹿なことを、「あ~、そういう方向にものを考えるんだ」という資料にしていただければ幸いです。

投稿: 闇鍋奉行 | 2007年8月 2日 (木) 23時56分

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