一昨日、また息子が暴れた。きっかけは「クリスマス」である。
もはや子どもたちはサンタさんが父親……ではなく母親であると気づいている。しかしまあそれはそれとして、「今年もサンタさん、来てくれるかなあ? サンタさんにお手紙書きなさいよ?」なんて子どもに声をかけている。
クリスマス。それは、日本人が最も熱くなるイベント。クリスマスイブに一人で過ごすのは最も不幸で屈辱的なことであり、何が何でもチキンやケーキを食べ、ワインを飲み、プレゼントをもらわないと「かわいそう」なのだ。ミサ?何それ?てな調子だけど、私たちは必死でクリスマスを「楽しむ」。
で、どんなに貧乏でも子どもたちにはちょっとした喜びを与えたいもの、とがんばってきた。正直、はずしたこともあるので慎重に、子どもたちの欲しいものを見極めなくてはならない。
娘のは早々に決まった。某電脳ペットだ。しかも触れて抱きしめられる!
しかし息子は、ちょっと予算外……のものを希望してきた。え、それちょっと…。今年のボーナスは期待できないし(それでも社長はがんばって私には少し出してくれたのだけど)、とにかく息子が不登校になり、それを解消すべく病院やら家庭学習やらに100万以上つぎ込んだ。すべては公立高校に入ってもらうためだったのだが、実際にはかなりお金のかかる「高校卒業資格の取れる」学校に行くことになった。息子が元気になったのだからめでたしめでたし、とは思うものの、現実問題「娘の教育費はどうなるの?」「自分の老後はどうなるの?」と不安は尽きない。本人バイトもしてるんだし、少しがんばれば買えない額ではない。ていうか、それを目標に少しは自己管理して欲しい……そんな気持ちもある。
けど。
私も相当親バカだ。「息子もがんばってるんだし、誕生日プレゼントとあわせて、なら考えてあげようかな」と思い始め、その希望をかなえようかと言う気持ちになった。
息子の欲しいのは、8ギガのデジタル音楽プレイヤーらしい。……私は一応ウォークマン世代だが、あんなものは耳に悪い、コミュニケーションを断絶する、事故の危険もあってよろしくない、とあまりヘッドフォンをつけて歩き回る習慣が無いので、息子の欲しいというものが一体何なのか、詳しくわからない。
ニンテンドウwii、とかなら間違えるはずも無いが、ああいう商品は各種のメーカーがそれぞれに出しているものだ。大枚はたいて「これじゃないやいうわあああああん!」と泣かれるのでは悔しすぎる。で、「何の機種が欲しいのかわからないから、お手紙かメールして」と私は再三、声をかけてきた。……喜んで返事をくれるものと思って。
ところが、まったく返事が無い。私は比較的そういう買物のしやすい外勤だが、さすがにこう日にちが迫ると必ず買えるという保証もできない。その日、もう冬休みだからとまったく起きない息子に声をかけてでかけ、さらに電話、留守電、メールで催促した。それでも、一体何が欲しいのか返事は無かった。ついでに、私の父、つまりおじいちゃんにも別のものが欲しいと言っており、それも大変マニアックなものなので父は「詳しくリストアップして、と何度も言っているのだが、一向に返事が無い。一体何が欲しいんだ」と私に聞いてきた。今時のオタク市場はものすごく広がっているので、さすがの私にもわかりません!ていうか、何なのだ息子は!せっかく「欲しいものを買ってあげよう」という親心を何で平気で踏みにじるのだ!
で、私は怒った。疲れて帰ってから食事の下ごしらえをし、最高の状態で供するため待ったのに、その日息子はバイトがとうに終わっているのになかなか帰らず、また顔を見ておいしく仕上げた食事に、ネット遊びを優先してなかなか箸をつけないのにもむかついた。人の好意をここまで踏みにじって平気な人間は世の中を渡れるはずが無い。ここで怒るのは、親の役目でもある。
息子もかなり、感情的になった。いわく、前におねだりしたとき「ムリ」とかいったじゃんか、だから俺はあきらめたんだーーー!とか。
だって、うちは本当にお金ないよ!すぐにいいよ、って言えるわけないじゃない!でも、がんばって買ってやろうとしたのになんで無視すんの?私だって忙しいよ!会社がかなりやばいし、残業続きだし!だから早く情報渡せって言ってやってるのにー!
うるせー!あんとき、ムリだって言ったじゃんかよー(号泣)!
当たり前だよ!うち、本当にお金ないよ!今だってあんたの学費請求書見て途方にくれてるよ(号泣)!
だったら入学させんなよ!アンタがムリだって言ったら、俺入学しねえよ!
そこくらいしか、受け入れてくれるところ無かったじゃないの!
泥沼である。私も息子もぼろぼろ涙を流しながら、の夕食だ。
そして恒例、息子が手当たり次第にモノを投げる光景になった。
翌朝、冷静に確認した。
お酢の瓶がリビングに。幸い割れずに投げられたが、おかげで異臭が立ち込める。
私の顔に、細いみみずばれがあった。至近距離から、息子が食べて放置していたカップ麺の容器をぶつけられたせいだ。こんなはかなげなモノでも、それなりに殺傷能力はあるな。
驚いたのは、台所に散らばる「裁ちばさみ」の残骸だ。……私の部屋にあったと思ったが、なんでここにあったのか……てその前に、ここまで壊れるものなのか。
さらに確認すると、秋にボーナスはたいて買ったばかりの愛しの冷蔵庫ちゃんが無残にへこみ、このはさみのものらしいオレンジ色の汚れをつけていた。ああ、これまで息子の暴力を知らなかった、そして私としては「きっと、もう息子も立ち直る。だから、買える。新しい我が家の象徴」と思いいれのあった冷蔵庫ちゃん。
こんな形で、我が家の歴史を刻み込まれるとは。
息子は私のほうにこのはさみを投げたけど、きっとわざとはずし、冷蔵庫が犠牲になったんだ……などと思っても、もう、何がなんだか。
クリスマスプレゼント、何が欲しい?と聞いただけで、こういう目に遭う。
……こうまでして楽しまなくてはいけないのか、クリスマス。
☆ ☆ ☆
翌日、息子をその「欲しいもの」が買える店に来るよう誘ってみた。必死で、残業を切り上げた。そのためまたトラブルになったのだけど……まあ、ともかく息子は嬉々としてやってきた。
ただ、私が仕事でむちゃくちゃな歩き方をしたんで、壊れた。息子と一緒の買物なんてめったにできないのだけど、もう、立っているのも難しい状態になった。
息子、一応遠慮したのかずいぶん安いものをねだり、重い荷物も持ってくれた。
足が重い、偏頭痛がする、節々が痛い、吐き気下痢がひどい、めまいがしてどうしようもない……ので、昨日は帰ってすぐに布団に直行。
今日もむちゃくちゃな歩きをした。だって、クリスマスを楽しむのにも、正月を迎えるのにも死ぬ気でやんなきゃいけないし。
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