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2007年12月25日 (火)

イブに丸鶏を焼いた~山岸凉子ワールドに思いを馳せる

昨夜はクリスマスイブ。前日購入した丸鶏に塩コショウして、室温に戻しながら休日出勤し、オーブンでじっくり焼いた。

うちは、塩コショウにドライハーブ、オリーブオイル。ローストするときにスライスしたニンニクと、家で栽培しているローズマリーの枝を少し入れて焼くことにしている。

山岸凉子作、「コスモス」を毎年思い出してしまう。

愛人に走った夫。妻は、それでも可愛い息子の前で理想的な母親を完璧に演じ、パパのいないつらい、クリスマスや正月を過ごす。しかし、知ってか知らずか、彼女は最愛の息子を追い詰めることに……。

ここで、母親が腕を奮ったローストチキンに、息子は「これまずいよ」と顔をしかめる。「そんなことないわよ、おいしいわよ」と言う母だが、それが大人…つまり夫と自分のための味付けなのだと気づく。幼い息子は、母が使ったハーブを嫌ったのだ。

そのハーブって、ローズマリーかなあ。

と、毎年思う。うちの子らはローズマリー大好きで、鶏を焼くときに添えると大喜びする。私も最初は「何これ…」と思ったくらい、微妙な香りだ。今ではこの香りが大好きで、クリスマスイブに鶏と一緒にこの香りが室内に漂うと、ローズマリーの木が健やかなこと、パパはいないけど子どもたちと今年もささやかなごちそうを囲んでイブを過ごせることの幸せを感じるくらいだが、これが、ローズマリー嫌いな子だったら……本音では夫を待ち焦がれる惨めな自分に泣くことだっただろう。

山岸凉子さんの作品は、とくに短編に名作が多く、不倫をテーマにしたものも数多い。不倫する側される側、いろいろとリアルに描いている。本人の経験?などと邪推してしまいたくなるくらい一時期数が多かったが、そうでなくとも山岸作品は、いつも「アナタは大丈夫?」と課題を投げつけるようなところがあって、読むたびに「これは私だ……」と悶々とするところが多い。

傷つくことを恐れて、現実から逃避した挙句……の数々のヒロインたち。私は「キエーーーーーー!」と奇声を発して空港を闊歩する岡村響子だったし、親のいいなりでやってきて、永劫続く恐怖に震えた霊感少女だったし、そしてこの、「コスモス」の母だった。

もちろん、ぜんそくを心理的なものと限定してはいけない。けれどこの、美しく聡明でお料理上手、気配り上手な母親の抱えるものを描いた「コスモス」は、私の中で名作中の名作だ。

「パパの悪口を子どもに言ってはいけない」とは、私の母の持論で、どんなにむちゃくちゃに暴れる父でも、私が小学5年になるくらいまでは、母は決して悪く言わなかった。泣きながらあんな父親要らない、死んじゃえ、という私に「パパは本当にすごいヒトだよ、こんなに賢くて、こう見えても紳士で…」と熱く語ったものだ。私がある程度大人になったら、本音の吐ける相談相手になったようだがw。

そういうこともあり、私も子供の幼い頃は決して夫を悪くいわず、コスモス母と同じように「忙しくて家に帰れないけれど、いつもあなたのことを思っている」幻想の夫を語り続けた。サンタさんのふりをしたパパ、のふりをしてクリスマスプレゼントを渡し、本当は自分が用意したものだけど「パパからよ」とお年玉を渡した。いつか、パパがひょっこり帰ってきてもうまくやれるように。子どもたちが傷つかないように。まったく、あのヒロインのように。

結局、それは私が子どもと、夫と、何の問題も無い幸せな家庭を守っていけるという幻想にしがみついていただけなんだな……当時、「コスモス」を読んだときにもわかっていたけれど。それでも「だからって、幼い子どもに言える?パパは家族を見捨てたから、ママがサンタさんやってるって」「きっと帰ってくるから、とにかく今はパパのことを信じさせて」

で、結局息子はともかく、娘の心をいたく傷つけてしまった。……私が幻想になんかしがみつかないほうがましだったんだろうか。

ついでに、題名が思い出せないのだけどW不倫の果てに死んだカップルのお葬式に集った、それぞれの子どもたちの物語の一部。

夫を取られた名家の女。これまで芸術家の夫に実家が支援してやり、おかげで名を売り始めていたのに夫は自分を捨てて、モデル女に走ってしまった。子どもが成人するまでは死んでも離縁してなるものかと、妻の意地でがんばっていたが、事実上「夫と、その美しい妻」と週刊誌で報じられているのを見て、週刊誌を破り、静かに泣く……

このシーンも、我が家では特別な意味がある。夫が家を捨てた原因になったヒト……は、別に有名人というわけではないのだけど、たま~~~~に、テレビに出る。出ると私ははっとして画面に吸いつけられるのだけれど、なぜか、そんな大人の事情を知るべくも無い息子が「チャンネル替えよう~~オレ、こういうの嫌いだし」とチャンネルを替えるのだ。

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