温まりにくいモノ~熱帯魚のヒーターが故障し、娘は手首を切った~
いつも元気な熱帯魚たちが、突然、エサを食べなくなった。
ひっくり返ってる老コリドラスもいるし、大好きな冷凍赤虫なんか、みな逃げるようで、朝もほとんど残っていた。……?不思議に思いながら仕事に追われ、また帰宅してコケで見えにくい水温計を見た。
20度をきっている。慌てて手を入れてみると冷たい!サーモスタットはいつものように26度くらいの温度をやってますよ~~と点灯しているけど、ヒーターが壊れてたり断線していたりしても点灯します、とご丁寧に書いてある。ヒーターは、消耗品だと聞いたことがある。すぐに買わないといけないのだけど……どう考えても、残業続きの今、そんな余裕はない。
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学校から電話があった。娘がひどくリストカットしている、という知らせだった。うすうす気づいたり、前にも注意していたりしたけれど、もうやめたかと思っていたのに。予想以上に彼女の傷は複雑で、学校も私も、仕事が大変だと言っても、話し合い、情報交換し、対処しなくてはいけないと判断した。かつてない会社の危機に、一分一秒でも惜しんでがんばれ!と厳しく発破をかける社長さえも、「ここはいいから、早く学校に行きなさい!」と言ってくれた。
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ヒーターを買えるのは早くても週末。あと2日、なんとか持たせてあげないとお魚が死ぬ。顔には出さないけれど、ヒレや動きを見れば熱帯からここまで運ばれてきてしまった魚たちがどれだけ凍え、苦しんでいるかはわかる。生きているものはいつか死ぬんだから、とそれほど手をかけていない鬼畜飼い主の私でも、こんな自分の瑕疵でまだまだ生きられる魚を死なせたくはない。
慌てて、浄水を火にかけ、お湯を沸かした。
古い水を出し、いつもより暖かめの~30度くらい?のぬるま湯を、注ぎ込んだ。急激に水温が変わるのも良くは無いが、凍える魚たちを、少しでも暖めてやりたかった。
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先生方とお話し、想像以上に深い娘の心の傷を知った。そして学校側に改めて、うちのとんでもない家庭事情や、娘がかつて性犯罪に巻き込まれていることなどを話した。学校側、意外と把握してなかったようだ。
賢く才能豊かな息子を不登校暴力息子にし、とても社交的で聡明だと評判だった娘をリスカ少女にした私を、これまで話したこともない学年主任は「どんなモンスター母が来るのかと心配したが、安心した」とおっしゃった。まあ、未だに子どもたちと同レベルなんで、「自分のときもこうでしたから」と冷静に話ができる程度だが。
娘は、本当に死にたいわけではない。自分を傷つけることでメッセージを発しているのだ。しかしそれをしっかり受け止め、対処してやらないと、本当にいろいろな意味で死ぬかもしれない。誰もが通る道ではあるが、なめていてはいけない。
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水は、ようやく20度過ぎまで温まった。室温は暖房なしでも20度をキープするが、息子が割った窓、さらにその破片がとれないところにあるため窓が十分閉まらないこともあり、ちょうど水槽に寒風があたる……気がする。朝にはまた18度くらいになってしまっていた。また、同じように水替えするか?でも、この水温水質乱高下に、魚たちは耐えられるのか?
水というものは熱伝導率が低くて、意外と熱しにくく、冷えにくいものだ。人間は火を使うのですぐに熱くなるものだと思いがちだが。そして気化熱はなめたらいかん!というくらい、熱を奪う。素焼きの水差しなど、じわじわと水面ばかりか水差しから蒸散し、暑いところでもそれなりに冷たく冷やしてくれるものだ。
放っとくと、冷えようとするのが、水。
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娘がうちに帰ってくるのは週末。じたばたしちゃ、だめ。このことは娘を預けている両親にも伝えたが、決して騒がず、普通にしてくれと言った。先生は、お母さんにこのことを伝えるときには、必ずあなたにも言うから、と約束していたので、きっともう、私にこのことが伝わっていると娘は知っていることだろう。だけど、騒がないで。話し合った日担任の先生は「『お母さん、忙しかったけど、先生が電話したらすぐに飛んできてくれたよ!』って伝えます」とおっしゃった。お願いします。
たしかに彼女を苦しめた原因はいろいろあるけれど、きっと一番彼女がアピールしたい相手は私。私が無関心ではいけない。絶対に。
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悩んだ挙句、水温を少しでもゆっくりと暖め、ゆっくりと冷ます(どうしても一日2回くらいしか世話できない)ためには、湯たんぽ作戦がいいのでは……と思えてきた。
牛乳などの紙パックに50~60度くらいの湯を入れ、きっちり、大き目のクリップで口を止めた。熱い。大丈夫かな。漏れないかな。計算上いきなり魚が煮えることは無いはずだが、どきどきしながら水槽に入れた。しばらく見ていると、徐々に水温が上がり、魚も少々活発になった。えさはごく控えめにし、とにかく水質と水温のゆるやかな変化をするように勤めた。
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娘が帰ってきた。この日も私は早めに帰った。……週明け、ちょっと地獄を見るかもしれないなあ……と、私も会社の人も思っていたが誰も責めなかった。また珍しく息子も早く帰り、妹の帰りを待っていた。「あれ。アンタが先に帰るとは…今から来るって電話があったけど、もうきてもいいのになあ」
娘、私の実家を出てからずいぶん時間がたっている。
漫画「テレプシコーラ」を思い出した。家族の誰も責めてなんかいないのに、1人で苦しんで命を断ってしまった千花ちゃん。まさか、私が怒ってるんじゃないかとか責められるんじゃないだろうかと、帰るのを悩んでいるんじゃないか、この寒空に妙なことを考えてないか…不安になった。
ご飯を作りながら、もう、探しに行こうか…と思うような時間になって、ようやく娘は帰ってきた。
普通に。普通に。
私も息子も、普通に接しながら、核心に触れようとしたり、とにかくいろいろ。
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正解なんか、荒れる本人にもきっとわからない。自分がなんで、こんなことをしてるかなんて。
とにかく、誰かにわかって欲しい。一番愛し、憎む人に。
私もそんな記憶があるのに、娘と離していて「ああ、私もそうだっけ。何で忘れていたんだろ」と思うようなことがいくつかあった。大人になるって、いろんなことを忘れることなんだよね。
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土曜の朝、娘は元気そうなのに部活を休むと言った。まあ、部活の先生にもそれなりに連絡が言っているだろうし、私も認めた。はあ、お寝坊するって楽しいね。ぐーたらお布団で過ごしたり、ふざけっこしながらアニメとか見たり。お着替えさせて~~などと言う娘に「あんたは5歳児かw」と突っ込みながら、娘が小さな頃の話をして和んだり。ヒーターも買ってきたので、お魚たちは徐々に元気になった。
でも、それで解決したなんて思えない。とりあえず、「ママは自分に無関心ではない」と思ってもらえただけでよし、だけど。
とにかく、ゆっくり、ゆ~っくり暖めるしかない。
あたしの好きなもの、知ってるよね?忘れてないよね??
と口には出さないけど態度に出ているので、昼食はお肉たっぷりのボリュームメニュー。満腹になって、またぐーたらとお布団に。
珍しく私の腕枕で昏々と眠ってしまった。
ひな鳥を暖める親鳥のように、娘を抱いたまま、私も眠りについた。とにかく、疲れた。
でも、娘を心配して疲れられるだけ、まし。娘は生きているのだから。娘の体の暖かさは、私を癒してくれる。
彼女の心まで、どれだけ温められたかはわからないのだけど。
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