お金は大事だよ~盗癖の息子~
高校の入学式で、入学金を納めなかった生徒2人が出席を拒まれるというニュースが出た。賛否……マスコミは学校側の非情さを責めるような感じだが、ネットではおおむね「学校GJ」「払えないなら進学するな」の論調だった。
さて、私も同じ失敗をするところであった。
今日パソコンがいかれてしまい、やむなく初期化。仕事に必要なソフトなどが息子のブラックホールに飲み込まれたらしく、必死で探していたら、封の切られていない息子の学校の封筒が出てきたのだ。「何これ…」慌てて開けてみると、新学年に必要な教科書や機材の振込用紙が3枚も入っていた。払い込み期日は、とうに過ぎている。明日、息子は支払い明細を持ってそれらを受け取りに登校しなくてはならないのだ。
時間は取り戻せない。もしかしたら息子の教材は明日、用意されていないかもしれない。それでも、何とか体裁を整えたい。
「今お金を下ろしてくるから、あんた朝9時に郵便局行って振り込める? 学校には連絡して」
「無茶だよー! オレ、行きたくね」
息子は昨日から、無気力な様子だ。パソコンのデータは消えるし、パソコン触れないし、バイトは忙しいし、何より、「お金がない」のだ。
ここでこれまでのあらすじ。暴力不登校息子は中学卒業後、今の学校で落ち着いたかに見える。しかし、一見賢く大人っぽく、しっかりしている子のように見えて、幼児のような部分があり、異常行動などに現れる発達の偏りが顕著になり、私は息子を病院に連れて行くなどしている。暴力は、一時期に比べれば収まったのだが、非情に正義感の強い一方、独善的な理屈を振りかざす面がある。特に母親で、唯一の保護者である私には愛憎をむき出しにしてくる。そして、盗癖が収まらない。
以前は千円札単位で抜き取っていたのが、万単位で大胆に抜き取るようになった。
息子の前期授業料=給料1.5ヶ月分。
娘の塾授業料=給料1.1か月分。
これを収めた春、私は大変金欠なのだが、おかまいなしにお金を盗んでいく。そしてそれは、大量のフィギュアやゲームのため、amazonさんやKONAMIさんやメロンブックスさんに貢がれていく。どう考えても息子のバイト代以上のお品物が降るように届き、私の用意した食事を残す一方で、ジャンクフードが食い散らかされていくのだった。
「金がないから、昼食うものがない。学校行くのイヤだ」
「学校行ったら、みんなモンハンやってる。行くのイヤだ」
あら、あんたてっきりモンハン買ったと思ってたわ、というと「発売されたころには手に入らなかったんだよ。再入荷したころには金がねーんだよ!」
何かと話題のゲーム、モンスターハンターポータブルセカンドG。たしかに先月末に発売されたころには予約してないと入手困難、多くの難民があふれたと聞く。……しかしなあ、なんでそう、無計画なんだ?
なんで、本当に欲しいもののために節約して、貯めておく、ということができないのだろう。なんでそこにあるから手に入れる、という感じでどこかの勇者さまのごとく人のお金を盗むのか、という疑問の次に不思議である。ママの財布が、いくらでもお金がわいてくる財布だと思った? ケルブの村※のとくべつりょうりだって、無限じゃないでしょう?
私は最近、財布をポーチに入れて鍵をかけ、トイレや風呂でも離さず持ち、就寝時には肌掛け布団でバッグごと包んで枕にすることにした。
それでもわずかな隙を見ては私の部屋に入り込み、探っている。わずか3分ほどでも暗号を解いて鍵を開けてるんだから、無駄にすごい。その才能をど…いや、活かすな。
「何やってるの」「あ……へうげもの、どこにあるかなあと思って」「1巻はこれよ」「ああこれかあ」……しらじらしい。
家には最小限のお金しか持ち込まず、さらにバッグを枕にして、ようやく息子が音を上げたのだ。「学校に行きたくない」と。知るか。
私は今、息子を兵糧攻めにしている。そうして、計画性や倫理をなんとか理解させようとしている。高度な数学はできても、こういうことが普通に言ってわからない子だから、仕方がないと思っている。困ることのできない子だから、困らせてやらないといけないのだ。私の親にも、お金を欲しがってやってくるだろうけど、盗まれないように、また無償でおこづかいを与えないようにお願いした。等価交換で報酬が得られることは「鋼の錬金術師」とバイト経験で覚えたはず。
「モンハン、明日かあさってあたり、仕事の途中で買えそうなら買ってきてやろうか。ただし、前借で」
「……うん……できれば明日…」
「明日買えるとは思うけど、仕事が優先だから絶対とは言えない。先週は売られていたけど、土日を終えて売り切れているかもしれない」
「……うん」
「ありがとうは?」「……ありがと」
一方、夕方見つけた振込用紙、なんとかできないかとお金を下ろしにちょっと先のATMに自転車で走り、念のため郵便局のATMに振込用紙を突っ込んでみた。おお、なんか機械で日曜でも振込用紙を受け付けてくれる世の中なんだ!……が、住所氏名が未記入だと突っ返された。慌てて家に戻り、「腐児男~(仮名)! ボールペン!ていうか、手分けして名前書いて~~~!」ATMが閉じるまであと20分。「どーだっていいよ」と言っていた息子も、一緒に振込用紙の記入をした。3件、必死で入金した。……とりあえず、品物は間に合わないかもしれないが、息子を手ぶらで登校させずにすむ。
それだけは、親の責任だと思うのだ。飢えさせない、貧乏だからと言って、人に迷惑をかけるような恥をかかせないというようなことは。
しかし、しばらくは自宅でおにぎり作ってがんばってもらおうか。自分の収入で、欲しいものと必要なものとをやりくりする、ということを学んで欲しい。
※ケルブの村……FF5第二世界の村。のどかな村で、とある建物のテーブル席に着くと、村の特別料理を勧められる。それをいただくと、宿屋に泊まらなくてもただで全回復できてとてもラッキー! ……だが、料理を食べるたびに、村にいるかわいい羊が減っていく。羊が全部いなくなると、その料理も出なくなってしまう……。
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