生き物の観察~江戸っ子おばちゃんの思い出
「県民」の番組が意外と好きで見ているが、「大阪人がくしゃみをすると…」という話題にちょっと触発され、昔話を書いてみる。読まなくてもいいかも。
20年ほど前勤めていた会社にいた、「山手線の外には住んだことがない」というおばさまのことだ。
いわゆるチャキチャキ(嫡々、の意らしい)の江戸っ子というのが自慢の彼女は、千葉埼玉はいうに及ばず、すべての地方人を見下していて、そのくせモラルも相当低かったので、私は大嫌いであったのだが、「江戸訛り」の貴重なサンプルとして、私はひそかに観察していたのだ。
彼女がくしゃみをすると、「くさめ!」とか「くしゃみ!」とか言った。
「くっさめ! くっさめ!」という、狂言が出る風邪薬のCMが昔にあったが、「くさめ」はくしゃみの古語だ。
はあ、これが江戸訛りか、と感心した。
江戸は、今の東京の東のごくごく一部だ。成城学園駅前住まいのお嬢様が「私は江戸っ子で」と言っていたが、笑止。そんなところは江戸ではない。青山や麻布あたりでも昔は「狸が出る田舎」扱いだ。むしろ「江戸訛り」圏は、東京下町と、千葉の方に分布するもの。性格は最低だが、貴重なサンプル。日々私はストレスを貯めながらも、彼女の言葉を拾っていた。
「江戸っ子は、『ひ』を『し』という」
これは本当だった。彼女はいつも「ひ」というべきところを「し」と言っていた。そしてまた自慢げに言うのである。「あら! 江戸っ子だから、つい出ちゃうのよね~! あっはっはっは!」はあ、そうですか。
私は幼い頃愛知県の新興住宅地にいた。新興住宅地というのは、いろんな地方の人が集まるもので、勢い「標準語」が使われるものだ。その地方では、語尾に「に」「だに」がつくのだが、小ざかしい私はそれを「そのことばは、まちがってるわ!」と嫌い、友達や、弟がそんな言葉を使うと、意気揚々と訂正してあげたものだった。こういう、何もわかってない子どもがいたために、方言という本来あるべき言葉が失われてきたかと思うと、なんだか情けない。標準語なんて、いろんな日本の言葉を混ぜて、日本の誰でも使いやすいように作ったものに過ぎなくて、これが正しいとか、方言が間違っているとかいうものではなかったのに。おかげで、愛知の方言を学び損ねた。
と言えるのは今だからであって、当時は「私だって東京育ちなのに! 今千葉に住んでいるからって、なんでこんなに毎日馬鹿にされなきゃいけないの?」という悶々としたものだ。いや本当、このおばちゃんと娘たちのねちねち極悪非道っぷりったら! 江戸っ子は口が悪いがさっぱりとしてる、なんてウソだ! という研究成果もあった。
で、この自称江戸っ子おばちゃんと私が、唯一意見があった話題がある。
昭和の歌姫、「美空ひばり」である。
その頃ちょうどひばりちゃんが病に倒れ、東京ドームで復活コンサートを開く、というところだった。
おばさまにとってはまさに世代を代表するスーパースター。
私は子供の頃苦手であったが、映画「悲しい口笛」「東京キッド」を見てからどっぷりはまり、「お祭りマンボ」や「りんご追分」が今もカラオケで得意のナンバーだったりする。
で、発見してしまったのだ。
おばさまは「美空しばり」とは言わない。
「しばりちゃん」とも言わない。
その気になれば、「ひ」っていえるじゃん、江戸っ子。
てやんでえこちとら江戸っ子でえ!みたいなイメージの江戸訛りは、20年前にも相当廃れていて、旧江戸の都市化に伴いそれを受け継ぐ人は激減。千葉の浦安あたりで、ようやく本物が見られるという状態だったそうだ。その浦安も、ディズニーランドができてから激変したし、本物の江戸訛りなんて今はほとんど聞くこともないだろう。
「美空しばり」と言うような。
言語学的にとても貴重な私怨日記を書いてしまった。
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コメント
闇鍋奉行さん、こんばんは
まーく自身は東京出身です。以前、このコメントを読んで、、
http://yaminabe-bugyou.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/post_464e_1.html
おお闇鍋さんは東京の中でも、結構、まーくと遠くない地域のご出身だ、と思っていました。
ところがなんとその上に、愛知県ともご縁のある方でしたか!
実は、私の祖父母が愛知県(三河)出身なんです。
だもんで、愛知県の方言といえば...。
この曲をカラオケでキチンと歌えるように、練習しています。
http://jp.youtube.com/watch?v=DIMAvhgsNGw
投稿: まーく | 2008年7月14日 (月) 23時00分
まーくさんようこそ~!
曲、聴きました。リスニングが難しかったんで、ニコニコにも見に行きました。清水義範の「金鯱の夢」を思い出しましたw
投稿: 闇鍋奉行 | 2008年7月15日 (火) 07時55分