アニメって、そんなにバカにされるものなのでしょうか?
もう、何十年も、「アニメをそんなにバカにしないで! 日本のアニメはすごいのよ!」と虚しく叫び続けてきた気がするけど。
日本テレビの朝の情報番組を見ていると、宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」と押井守監督の新作「スカイ・クロラ」で日本中が騒然!という気になる。要は、日本テレビがこれらに関わっていて、全局をあげて宣伝しているわけだけど、反比例するように、どんどん私の心は醒めていく。
先日の「スカイ・クロラ」の紹介コーナーでは、ベネツィア映画祭に出品!なぜ押井作品は海外でも高い評価を受けるのか!という内容だった。
なんでもこの番組によると、押井守作品が海外で評価される理由その1は、
「声優を使わず、俳優を起用している」
だそうだ。
ええ、たしかに昔から押井守監督の声優の使い方は面白かったですよ。千葉繁という脇役声優の才能に目をつけ、「うる星やつら」という絶大な人気の原作つきのアニメで、独自の展開をし、本来名も無い脇役だった「メガネ」を、あそこまで存在感たっぷりのキャラクターにしてしまったとか。
「劇場版機動警察パトレイバー2」では、根津甚八と竹中直人をさりげなく起用していた。私はあまりアニメに詳しいほうではなくて、何も知らずにその映像を見て、「あの役とこの役の声優さん、すごかったわ~誰かしら???」とわくわくしながらスタッフロールを見て、そのビッグネームに驚いた。けれど、でかでかと「あの芸能人が声優初挑戦!」なんて軽々しくやっているものとは違って、本当に適材適所、声優としてこの役をイメージどおりに出来る人を選び、またそれをちょうちんのごとくぶら下げたりは、していなかったんじゃないかと感じた。
押井作品が、日本のアニメファンどころか、世界に認められ始めた頃って……よくはわからないけど、そんなに「声優ごときは使いません!プwアニメなんか普通出ないような、有名人ばかり使ってますよ!」というような監督だったっけ…?「攻殻機動隊」は、そんなに芸能人だらけだっけ……?
攻殻機動隊2ともいえる「イノセンス」で、「Sプロデューサーが、素子の声を人気女優にやらせようとしたが、押井監督の強い反対で、本来の声優さんでできた」という噂を聞いた。Sプロデューサーとは、最近のジブリ作品でも幅を利かせる敏腕プロデューサーである。
押井作品が海外で評価される理由その2は
「アニメなのに、ロケハンしている」
だそうだ。アニメなのに、ですか。
たしか大昔、「赤毛のアン」でロケハンを敢行という記事を読んだ気がする。アン・シャーリーが過ごしたプリンス・エドワード島を忠実に再現するために、アニメスタッフがカナダに飛んだのだ。当時の、金をかけないアニメ作りの世界ではそれは画期的なことで、緻密に描かれた背景や自然描写に、私は涙したものである。
けれど、ロケハンしたから名作、しないからダメ、というものでもないのがアニメだと思う。
「パトレイバー」劇場版第1作の、失われ行く東京をロケハンしたのは私でも知っている。たしかにあの描写はすばらしかった。舞台は1999年だが、パトレイバーという作品が構築されたのはその10年も前だ。好景気に沸き、若者は肉体労働を嫌い、いろいろな規制が緩和され、外国人労働者が大挙して、「国際化」なんてものが叫ばれた時代だ。地上げが横行し、ウォーターフロント、ジオフロントなどという言葉で彩られながら、東京はどんどん変わって…いや、壊されていく。そんな時代だから、二足歩行でいろいろな局面に対応できる「レイバー」が生まれ、それに対応する「パトレイバー」が生まれた。本当に、面白かった。もう20年も昔の作品なのに、今見てもおもしろい。幼少時「つまらない~ほかのが見たい~」とごねていた息子も、今では夢中である。
けど、アニメの魅力って、ロケハンするかしないかなの?
世界で人気の日本のアニメはいくらもあるけれど、ドラゴンボールとか、マッハGOGOGO!とか、ボルテスⅤとかって、ロケハンしたから、声優を使わなかったからすばらしいの?
この作品のこだわりとか、緻密な描写をあげつらうのは勝手だけど、このコーナー、いちいちアニメというものをバカにしてない?????
たまたまその番組を見ていた息子がわなわなと震えた。「俺、こいつぶっ殺してえんだけど」画面にはSプロデューサーが映っている。
これこれ、犯罪予告をしてはいけません。気持ちはよ~~~~~~~~くわかるけど。
「この人でしょ、素子の声を女優にしろって言ったの」
「マジ市ね! こいつ殺してえ!」
いかん、火に油を注いでしまった。
また朝のテレビを見ていて、まったく違う映画の「芸能人声優挑戦!」報道を呆れ顔で見ていた娘。「こういうのってさあ、映画の内容とか何にも触れないで、どうでもいいような芸能人のプライベートに話題を持っていったりして…よっぽどつまらない映画なのかなって思うわ」とつぶやいた娘に、「スカイ・クロラ」が海外で評価される2つの理由(by Sプロデューサー)を教えてあげた。部活で出かける直前の娘が、やはりわなわなと震えた。
「……何それ…ありえねー……!」
彼女、骨太な押井作品なんかよりも、年齢相応に中学生女子が楽しいアニメが好きなタイプだが、遅刻するぞ!と言われてもめげずになんか押井作品っていうのはなあ!と熱く語り始めた。あんた、見ていないようで、見ていたんかーーーい!w
まあ、これほど、多くの人たちが築いてきた日本のアニメーションという表現と、声優という人々を小ばかにしているようなら、私は見る気もうせる。
昔のような、アニメ声優とか俳優とか関係ない適材適所な絶妙な配役でもなく、「話題作り」だけで配役するのなら、魅力も半減である。
というわけで、我が家は昨今のアニメにプチストライキ。
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コメント
はじめまして。
面白い文章とすごい不幸そう(だった?)境遇のギャップにファンになりそうです。
アニメはよくわからないのですけど、ちょっと昔に同じ様なことを感じたことが有りました。
広井○子という人が「ゲームは映画を目指している」といったのを見ました。
そういう遊び方(ストーリー重視)をしている人もいるかもしれません。
でも寄り道・パーティーメンバーやジョブ取得・成長・レアアイテムドロップなど
ゲームならではの楽しさを全て否定されたように感じて、「こんなやつゲーム作るな!」と思ったのでした。
ためしに遊んだ火星物語は戦闘もほとんど苦痛なミニゲームで一方通行で成長も変わらず、私には合いませんでした。
と、勝手に共感してしまった過去の不満をぶつけてみました。すみません。
投稿: らぶる | 2008年8月14日 (木) 02時40分
らぶるさん、ようこそ~!
ゲームも…よくリアルな映像の作品が話題になると「まるで映画のよう!」「これはもうゲームじゃない!」などとコメントされてちょっとひっかかることがありますね。ゲームはあくまでゲームで、映画や実写以下のものなどではもともとなかったし、ものによっては映画以上の美麗さと、プレイヤーがプレイすることによっていろいろ変わる部分もあっておもしろく、映画でもゲームでもない新しい媒体に進化したかなと思いますが、「映画を目指す」とか言われちゃうとたしかにがっかりしますよね……もうとっくに、ゲームは「映画以上」なのに……。
投稿: 闇鍋奉行 | 2008年8月14日 (木) 09時03分