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2010年6月27日 (日)

スコールは入院できない

息子に荷物を持っていって、「今日、じいちゃん・ばあちゃんが見舞いに来るかもしれないよ」と伝えた。

「マジかよ~(´д`)」
「何言ってんの。あんたが入院できるのはじいちゃんのおかげだよ。ほら、昨日夜、保証人になってもらった」
「マジかよ!(,,゚Д゚) Σ」

緊急入院に呼び出され、私は保護者として、息子の胸に穴を開ける等の同意書をとられた。
さらに入院の手引きをいただき、宣誓書を渡された。

本人の署名欄、保護者・配偶者など家族の欄、さらに、それらとは生計を別にする「保証人」の欄があった。
私の実家がそばにあるので、そちらにお願いに言ったのだ。……元気すぎるの、アスペだのとこの日記でも書いているが、足腰がすっかり弱り、最近は脳梗塞の診断も下った父が、たどたどしく署名・捺印してくれた。

「……字、でっけえ…」

おじーちゃんの筆跡に、息子も少し驚いたようだ。
「脳梗塞らしいから」
「ま、マジかよ!そっちのほうが心配…(,;゚Д゚)Σ」
「まあ、すぐにどうこうということもなく、治療に入れるようだから」

と私も諌めたが、…不謹慎ではあるが、これは息子の教育 の機会でもある。この書類の意味について、一応説明してみた。

「ママもこの病院で手術入院したけど、近くに親がいるって、ありがたかったわ。家族(成人)は、なんとか夫の署名を手に入れた。そしてすぐ親に保証人欄を埋めてもらえた。もしも家族も無く、信頼してくれる人もいなければ、入院もできないんだわ」

「……(,,゚Д゚) 」

そう、病院だって慈善事業ではない。思うような結果が得られなかったからといって裁判だなんだと大騒ぎするような患者は困るし、入院治療費を払えない患者も困る。救済措置はあるようだが、まずは自分で、そして家族が、さらには別生計の保証人が、と幾重にも保障を求めるのだ。

もしも天涯孤独の身なら大変だ。自身が十分な蓄えを持つか、保険でなんとかするかするとしても、やはり保障人として判を押してくれる人がいないと、入院も引越しも、何もできない。

「……まあでも、俺はネットや仕事で、信頼してくれる人もいるし…」
「万一あんたがお金を出せなければ、何十万、何百万でも払います、という意味なんだよ、これは。それだけの信頼関係を築くのは、大変なこと」

「……」

いろいろと悪態をついたこともあるけれど、PCメンテの名目で毎月5000円のお小遣いをくれ、こういうときに無条件に判を押してくれるおじーちゃん…

「スコールは、入院できないかもね」

ファイナルファンタジー8は、FFファンの中でも賛否の分かれるテレビゲームだ。FF史上最も売れたソフトではあるが、最後までいけたか、これが好きかと言われればNO!と言う人も多いと思う。
それはバトルシステムがちょっと特殊だったこともあるが、主人公とヒロインの性格が、いろいろアレだったのだ。

通常のロールプレイングゲームは、プレイヤーの分身である主人公を操作して、非日常的な冒険を楽しむものだ。FFシリーズは、プレイヤーの分身ではなく、独立した人格を持って物語を進めることが多いのだが、ことにFF8は「主人公に共感できない」と投げ出す人が続出したのだ。

私もその一人で、「これほどゲーム向きでない性格も無い!」と酷評。一度は投げ出した。
その後、バトルシステムを理解して、ようやくエンディングにいけたのだ。

……スコールは、私だった。

こんなイケメンでも有能でもないけれど、なんだ、この物語は私のような人間に何かを伝えるためにあったのか、と痛感した。

スコールは、極端に人とのふれあいを嫌い、孤独を愛する男だ。
「期待して、裏切られるのがいやだ」「仕事をやってればいいんだろう」と、孤高の人を貫く。

が、その彼がエンディングで孤独という恐怖を実感する。

人を蔑ろにすることはこういうことか…

このゲームを作ったスタッフもすごい。現実に背を向けてゲームに没頭する人はおいしいお客様だが、あえてそういう人に「これでいいのか」と投げかけたのだ。あの頃のスクエアは、いろいろと面白かった!

どんなに不孝しても、当然のように協力してくれる親や親戚がいなければどうなるのか。
友人などが、果たして数十万の金を請求されてもいいよ、と判を押してくれるものか。

息子は、それなりに信頼できる友人知人がいるようだが、その書類を見て認識を改めたようだ。
「オカンの入院費用っていくら?」
「同じ無差額の部屋で、30万くらいかな」
「30万!」
息子と娘が目を見張った。幼い頃と違い、その金額の重みを実感できる年頃だ。
「でも、保険でほぼ全額払えた。それに仮にも正社員なんで、1ヶ月以上の休養でも保障してもらえた。バイトやフリーター、契約社員などでは、ちょっとの病気・ケガでも命取りになりかねない。家族や親戚、信頼してもらえる友人がなければ、入院さえできないのである。

いやあ、子どもらに良い教育の機会になった…

入院3日めにまた、頼まれたものを届けに行くと、息子のベッドに腰掛けているらしい女の子の足が見えてびっくり。

中学時代の不登校仲間の男女が訪問し、何かと差し入れしてくれていたようで、もうオカン帰っていいよ~な空気がモロ。

…まあ、それもいいか。

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