稜線を行く「アスペルガー」
先日、ひょんなことから登山をした。
山頂に上り、稜線を辿って森の中を歩く。
両側は急傾斜。落ちたら這い上がってくるのも大変そうだ。うっかりこんなところでトイレに行きたくなったら大変だ…
しか面白いのは、同じ森のようでいて、右と左の景色がまるで違う。
片側は比較的若く明るい雑木林のようで、地面には落ち葉が積もっているのが見える。
もう片方は、鬱蒼とした原生林の様相で、落葉松の古木には藻のようなものが絡まり、地面は苔むしている。
稜線を行く道は、わずか1メートルほど。
なのにまるで別世界が広がる……
山のこちら側とあちら側、という環境の違いが、これほど生物に影響を与えるとは……
☆ ☆ ☆
最近、ネットの世界を泳いでいると「アスペ」という言葉が罵倒語になっているのに気づいた。
何かにつけて「おまえ、アスペだろwww」などと罵りあうのだ。
発達障害に関する記事や書籍、テレビ番組などは数多く、理解を得られたかと思うと、こういうこともある。
「アスペルガー」という言葉が世に知られたきっかけが、少年の猟奇的犯罪だったこともあるし、昔と違ってコミュニケーションが重要視される時代にもなって、この言葉にネガティブな印象が強くなってしまったのは否めないだろう。
昔だと「成績はいいけど変わった子」だったのが「障害者」として認識されるようになって、いろいろ鬱憤が晴らされることになったともいえるだろう。
延々、「本当に迷惑!」「使えない」「天才とか言ってて痛すぎる!w」など、私自身も耳の痛い体験談や、歯に衣着せぬ言葉がとびかう。
……1980年代には「パラノキッズ」と表現され、それが「オタク」という言葉に代わり、こだわりが強くコミュニケーション下手な私たちはずっと差別されていたから、もうなんとでもーと思うけれど……
でも本当に、アスペルガーとよばれる人々は、この稜線を歩くように環境や性格、育てられ方によって極端なのだ。
恵まれた人は、学者や芸術家などの世界で花を開かせる。数学など多くの学問は、こういった傾向の人の存在無しでは成立しなかっただろうと思う。人類の発展を、アスペルガーが支えたと言っても過言ではない。
が一方で、理解しがたい犯罪を犯したり、引きこもりなどになったり、トラブルメーカーだったりして難しい存在なのも事実だろう。
ほんのちょっとの違いで、天才にも極悪人にもなってしまう。
こんな稜線に生まれてくるのが、アスペルガーなのだ。
天才とまではいかなくても、自分の持って生まれたものを活かし、社会で孤立しないようにするにはどうすればいいか……
私は、早期に自分自身、あるいは親が子のことを知ることだと思う。
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コメント
本当にその通りだと思います。
最近は超早期療育(1歳から)をはじめている所もありますよね。
我が子は小5くらいから、ちょっと…と思いはじめ小6で診断がつきました。
中学ではなかなか理解してもらえず、二次障害を起こして不登校となりましたが、アスペルガーの子どもも多く通う今の高校に入学してからは、目を見張るような成長ぶりで、今は大学受験目指して勉強に、部活に頑張っています。
また発達障害をもつ者としての生きづらさに対しては、主治医と相談し精神障害者福祉手帳を取得し、障害者枠での就労も考えています。
アスペルガーについて勉強していくにつれ、明らかにそうだろうと思われる子どもが未診断だったり(親が気付いていないか知ろうとしない)や、診断はついているが子どもに告知していない親が周りにかなりいる事を知り、それぞれの事情はあるにせよ、当事者の子どもの将来を思うと、残念な気がします。
投稿: みりょこ | 2011年10月17日 (月) 09時30分
はじめまして。
私も子どもたちも、若干の発達障害の傾向を抱えていると思っているものです。
私のこどもの主治医で友人の児童精神科医は、なかなかはっきりとは診断をくださないタイプのようで、私のこどもに対しても、その傾向は若干あるかもね程度で、なかなかはっきり言ってはもらえなかったです。
確かに、こどもはボーダーという感じなのですが、とても育てにくい一面を持っています。
私は幼稚園教諭もしていたので、診断名がつかなくても、この育てにくさは自閉的傾向からくるものだなあと思っていました。
私自身も、発達障害関係の本を読むと自分と重なる部分を多く見つけます。
こどもは中学の時に不登校になり、高校を転校しましたが、今は元気に学校に行っています。
精神科医曰く、診断名は逃げの口実になる場合もあるということで、こどもには自分の生徒にはこういう障碍があるが、そのような傾向は私にも貴方にも若干だけどあると思う、でも、気が付いてどうすればいいか考えて作戦を立てれば、うまく乗り切ることができると話しました。
投稿: もりす | 2011年10月22日 (土) 12時13分
もりすさん、ようこそ~!
とても冷静なお話、ありがとうございます。
私も子どももボーダーラインで、児童相談所や精神科、メンタルクリニック、臨床心理士などいろいろ診ていただきましたがやっぱり太鼓判(?)というほどではなく、そういう傾向だけれど、能力に問題はないし社会にまったく適応できないわけでもない、とのことでまあ「お母さん自力でがんばれ」と言われたようなものでwなんの援助も得られない微妙な立場になりつつ、手探りでやってきました。
自分自身も、今のこの年でようやく随分まともになったなと思えますし、子どもも冷静に自己分析しながら、それなりに働き、いろいろな人と触れ合っています。
自閉症などの障害がある…と自覚するのは終着点ではなく、出発点ですね。障害だからしょうがないでしょ、と甘えるのではなく、自分や子どものできること、できないこと、得意なこと…それをしっかり知りつつ周囲の理解を得つつ、生きていくしかないですね。
投稿: 闇鍋奉行 | 2011年10月22日 (土) 19時56分
闇鍋奉行さん、こんばんは。
>私は、早期に自分自身、あるいは親が子のことを知ることだと思う。
まるまる同感です。
うちの子どもは、1歳半すぎにちょっとおかしいなあと思い始め、色々と調べた結果、自分にも自閉傾向があることに気づきました。今までの自分の人生を振り返り、数々の失敗はこれが原因だったんだと納得しました。
でも、診断名はつかないけどその傾向がある人ってかなり多いと思いませんか?人口の2~3割は濃い薄いの違いはあれ、自閉傾向があるのでは、と私は思います。
私もうちの子どもにもいわゆる診断名はついていません。早くから気が付いて色々と工夫を重ねたせいか、年少クラスの息子は、今では、いわゆる初体験に弱くて多少パニくる傾向がある点と、少しこだわりが強いかなという点位しか、育てにくいと感じる点はありません。また、息子は不器用で運動音痴なのですが、それは育てにくさとはあまり直結していないと思いますし。
うまくいけば、ジョブスのような成功者にもなりうるし、うまくいかなければ、犯罪者にもなりうるというのは、本当にそうですよね。
投稿: きりん | 2011年10月24日 (月) 00時53分
こんばんは。うちの中学二年の息子もアスペルガーですが、やはり中学は大変ですね。高校受験を考えると頭が痛いです。発達障害に理解ある高校ってどんなところなんですか?
単位制の高校が近くにあるのでそこがいいかと思っています。発達障害の大変さは本人や親にしか分かりませんものね。
投稿: ピーナッツ | 2011年11月 2日 (水) 20時01分
きりんさん、ようこそ~!
お返事が遅れてすみません。
まったく、発達障害の傾向はあるけれど、生活能力はある、という見立てだと、困りますよね…
まあそれはわかるんです。目が見えないとか足がないとか、それは支えてあげないといけない。誰だって、事故や加齢で障害者になるし。
でもまあ、発達障害だけど、能力はある、と言うのなら、自分次第で自分の生活を守れるし、人のことも支えられるというお墨付きをもらったようなもの…と思ってます。
投稿: 闇鍋奉行 | 2011年11月 3日 (木) 23時49分
闇鍋奉行様
お忙しい中お返事有難うございました。
発達障害は本当に人それぞれで…
息子は自閉傾向がチラチラかいまみられるものの
その程度が困り果てるまでではない反面、
キラリと光る突出した能力は今のところなく、
「なんとか周りについていけてるけど
ちょっと足りないかもしれない子」のように
みえます。
残念ながら得意なものはないのですが、
息子なりに好きなものをみつけて
それを生かしていってくれればなあと
思っております。
ところで、ここのところ皇室を取り囲む動きが
あわただしいですね。
別のテーマで闇鍋奉行さんがとりあげていらっしゃるの、そちらにコメントします。
投稿: きりん | 2011年11月27日 (日) 19時05分
きりんさんようこそ~
得意なものがないならないなりに、まずは言葉遣いを丁寧に、人はどういうことを嫌がり、喜ぶのかを教えてあげることで生きやすくなれますよね。
前に書いたかもしれませんが、親が「お前は何の取り柄もない。だから努力しなさい」と言うので、努力した、だから今、いろいろなことができる、という人もいるし。
我が身を振り返っても、少々物知りだとか早熟だとかでむやみに賢い、将来は博士だ、なんて言うのではなく、なんであの時、「それはすごいけれど、世の中にはもっと大事なことがあるのだ」と…
あ…言われてたっけ…何度言われてもわからなかったあたりが、やはりダメなんですorz
投稿: 闇鍋奉行 | 2011年11月29日 (火) 00時59分
>人はどういうことを嫌がり、喜ぶのかを教えてあげるこ>とでえてあげることで生きやすくなれますよね。
お返事ありがとうございます。
仰る通りです。
これが一番大事なことのような気がします。
「察する」能力が低いので、「そういうことをされたら嫌だ」と随時伝えることを心がけることが大切ですね。
投稿: きりん | 2011年12月 4日 (日) 01時38分
きりんさん、ようこそ~
「相手の身になる」ことが少し難しい場合は、根気がいりますね。
投稿: 闇鍋奉行 | 2011年12月 4日 (日) 09時58分