生きるために必要なこと
息子は今、荒海に乗り出している。
詳細は書けないが、とあるベンチャー企業に声をかけられ、技術を身に付け、一人で店を任されているのだ。
息子はその特殊技術も凄い勢いで身につけたというが……それ以上に、息子のスキルの高さを、その企業も私も本人も認識して驚いているところ。
息子は、所謂アスペルガータイプである。
タイプ、というのは、あちこちで診断を求めても「そうかもね、だけどなんとか出来るんじゃ」というまさにボーダーで、暴れて家族の命の危険があろうが、能力の高さに惚れ込んだ学校でさえもう勘弁して、ということになろうが、完全な障害者として保護を求められず、自己解決をするしかない、という微妙な状態だったのだ。
私も同レベル、いやそれ以下で、小学校の頃はろくに話もできず、笑顔をうかべるということもできず、物心つくころから分厚い百科事典だけを友達にするような子だったのだが…それでも一応、自分の転機になったことが、高校時代のバイトだった。
というわけで、息子には15歳から働かせることにした。
これは、結構良い教育になったと自画自賛する。
また息子が選んだバイトの店は、きちんと叱ってくれる店だった。
それで息子も傷つき、最初はもういやだ、と泣いたが、ママもそうだった、だけどそれで、本当に大事なことを教われたんだ、と諭してバイトに行かせた。
最初の給料をもらうと、息子は俄然意欲を出した。
一応、運転免許のために月1万円ずつ貯める、というルールは設けたが、月5万くらいの可処分所得を15歳が得ると、「親にあれこれ言われず使える自分の金」の魅力にとりつかれる。
そうなると、バイトが楽しくて仕方がない。
もう、親に養ってもらってるくせに!とは言わせない。
難しい客のあしらいも、トラブルの対処も、汚れたトイレの掃除も、息子は意欲的に取り組み、その店では大変に可愛がられる店員に成長したのである。
そのあともいろいろあったが、自分で買ったPCで遊びはするけれど、決して「ニート」に甘んじて親にあれこれ言われるよりも、きっちり稼いで親を見返してやる、というくらいの力をつけてきた。
で、今の仕事だが…まず、オープニングスタッフひとり。
カウンターや什器などの組立まで、自分でやんなきゃいけない。
息子は、小学校以外満足に学校に通っていない20歳の青年だが、これを黙々とこなした。
思えば、「ほぼ母子家庭」で、貧乏だったのが幸いした。
息子は小学校の頃、私につられて簡単な家具作りを経験していた。のこぎりも、釘打ちも、ネジを回すのも、ある程度は身につけていたのだ。
春まで働いていたとある大企業ではこれが出来る人が意外におらず、これまた息子が重宝されていたのだという。のこぎりを使い、ちょっとした機械の修理ならささっと直してしまう。
また、その企業では息子も一切しないようにしていたようだが、接客、営業もばっちり。
ある日、あるアイテムについて私が相談したら、息子は流れるような美しさで商品説明をし、メリット・デメリットを納得させた上で「お客さまには今でしたらこれがおすすめです」と言った。
「それ、いただくわ!」
私はこの時、テレビショッピングのお客役女優になっていたと思う。
すごい!
この子営業や販売員にも向いてる!
…って、これってすごいこと。
私の子供の頃は、所謂セールスマンを見下し、立派な学歴を持って一流企業に勤め…なんていうのがエライのだ、と言われたし、私もとりあえずお勉強だけは異常に出来たのでそれだけで問題に思われなかったけど…本当に大事なのはコミュニケーション能力。
生半可な知識だの学歴だのは、飾りにもならない。
コンピューターは、誰でも使える。調べたいことがあればすぐに検索できる。
歩くデータベース程度のアスペなら、もういらないのである。
普通に笑顔で会話をし、人に好かれ、和を保ち、顧客の信頼を得る。
今の時代、これが出来る人間はどこに行っても重宝される!
かつての「荒ぶる少年」は、技能面だけではなく、見事なコミュニケーション術、人心掌握術、大工仕事も出来る有能な青年に成長していた。
これまでは、超有能なのも真っ直ぐな性格なのも災いした面があるが、もういろいろ成長した息子もわかっている。
お客に喜ばれ、かつ利益を出すのが本分。
まだ利益が十分に出ているわけではないのだが、着々とお客を満足させ、次につなげるように努力し、また人脈も広がりそうである。
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