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2012年8月30日 (木)

生きるために必要なこと

息子は今、荒海に乗り出している。

詳細は書けないが、とあるベンチャー企業に声をかけられ、技術を身に付け、一人で店を任されているのだ。
息子はその特殊技術も凄い勢いで身につけたというが……それ以上に、息子のスキルの高さを、その企業も私も本人も認識して驚いているところ。

息子は、所謂アスペルガータイプである。

タイプ、というのは、あちこちで診断を求めても「そうかもね、だけどなんとか出来るんじゃ」というまさにボーダーで、暴れて家族の命の危険があろうが、能力の高さに惚れ込んだ学校でさえもう勘弁して、ということになろうが、完全な障害者として保護を求められず、自己解決をするしかない、という微妙な状態だったのだ。

私も同レベル、いやそれ以下で、小学校の頃はろくに話もできず、笑顔をうかべるということもできず、物心つくころから分厚い百科事典だけを友達にするような子だったのだが…それでも一応、自分の転機になったことが、高校時代のバイトだった。

というわけで、息子には15歳から働かせることにした。
これは、結構良い教育になったと自画自賛する。
また息子が選んだバイトの店は、きちんと叱ってくれる店だった。
それで息子も傷つき、最初はもういやだ、と泣いたが、ママもそうだった、だけどそれで、本当に大事なことを教われたんだ、と諭してバイトに行かせた。
最初の給料をもらうと、息子は俄然意欲を出した。
一応、運転免許のために月1万円ずつ貯める、というルールは設けたが、月5万くらいの可処分所得を15歳が得ると、「親にあれこれ言われず使える自分の金」の魅力にとりつかれる。
そうなると、バイトが楽しくて仕方がない。
もう、親に養ってもらってるくせに!とは言わせない。
難しい客のあしらいも、トラブルの対処も、汚れたトイレの掃除も、息子は意欲的に取り組み、その店では大変に可愛がられる店員に成長したのである。

そのあともいろいろあったが、自分で買ったPCで遊びはするけれど、決して「ニート」に甘んじて親にあれこれ言われるよりも、きっちり稼いで親を見返してやる、というくらいの力をつけてきた。

で、今の仕事だが…まず、オープニングスタッフひとり。
カウンターや什器などの組立まで、自分でやんなきゃいけない。

息子は、小学校以外満足に学校に通っていない20歳の青年だが、これを黙々とこなした。

思えば、「ほぼ母子家庭」で、貧乏だったのが幸いした。
息子は小学校の頃、私につられて簡単な家具作りを経験していた。のこぎりも、釘打ちも、ネジを回すのも、ある程度は身につけていたのだ。

春まで働いていたとある大企業ではこれが出来る人が意外におらず、これまた息子が重宝されていたのだという。のこぎりを使い、ちょっとした機械の修理ならささっと直してしまう。

また、その企業では息子も一切しないようにしていたようだが、接客、営業もばっちり。
ある日、あるアイテムについて私が相談したら、息子は流れるような美しさで商品説明をし、メリット・デメリットを納得させた上で「お客さまには今でしたらこれがおすすめです」と言った。
「それ、いただくわ!」
私はこの時、テレビショッピングのお客役女優になっていたと思う。
すごい!
この子営業や販売員にも向いてる!

…って、これってすごいこと。
私の子供の頃は、所謂セールスマンを見下し、立派な学歴を持って一流企業に勤め…なんていうのがエライのだ、と言われたし、私もとりあえずお勉強だけは異常に出来たのでそれだけで問題に思われなかったけど…本当に大事なのはコミュニケーション能力。
生半可な知識だの学歴だのは、飾りにもならない。
コンピューターは、誰でも使える。調べたいことがあればすぐに検索できる。
歩くデータベース程度のアスペなら、もういらないのである。

普通に笑顔で会話をし、人に好かれ、和を保ち、顧客の信頼を得る。
今の時代、これが出来る人間はどこに行っても重宝される!

かつての「荒ぶる少年」は、技能面だけではなく、見事なコミュニケーション術、人心掌握術、大工仕事も出来る有能な青年に成長していた。
これまでは、超有能なのも真っ直ぐな性格なのも災いした面があるが、もういろいろ成長した息子もわかっている。
お客に喜ばれ、かつ利益を出すのが本分。

まだ利益が十分に出ているわけではないのだが、着々とお客を満足させ、次につなげるように努力し、また人脈も広がりそうである。

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2012年8月 5日 (日)

闘う母親たち~おおかみこどもの母親~

残念ながら、哺乳類は子殺しをする生き物である。

乳を与え、かいがいしく世話をする生き物である反面、育児には大変な労力を要するため、母親がそう判断すれば育児を中止し、子を殺す。
有名なのはライオンだが、ボスが交代すると旧ボスの子は殺され、メスの発情を促し、新しい子を作る。
人間もまた同じで、何らかの事情で男と別れ、新しい男とつがった場合、もちろんすべてではないが痛ましい結果になり、よく報道される。
母親が母性を優先するとは限らない。
利己的な理由を優先すれば、昔の男との子は邪魔であり、新しい男と共同で子を追い詰め、最悪の場合しに至らしめる。

人間と言っても、哺乳類の一種。
理性が勝つとは限らないのだ…

なんていうことを、「おおかみこどもの雨と雪」を見ながら考えていた。

主人公の花は、一見ふわふわ可愛らしいが、まことに理性的で、精神的に自立した女性である。

それと対照的なのが、雪が狼の本性を出し、大怪我をさせてしまう同級生・草平の母だ。

謝る花に対し、謝ってすむのか、全財産を処分しても…というような言い方で責め立てる母親。
子どもへの愛ゆえ…というよりは、自分の所有物を傷つけられて、過当な請求をするように見える人物だ。
なかなか美人で垢抜けているが…子を愛するようでいて、どこか自己本位な女性である。

終盤、彼女はどうも再婚?をしたらしく、すでに妊娠もしている、という話が出てくる。
そして草平は、母親について「俺はもう要らないって」と雪に告白するのだ。

…それが、何かの親子喧嘩で突発的に言ってしまったのか、多感な時期の草平が、そう感じ取ったのかは作中ではわからない。
もっと幼ければ、本当に殺されたり、母の里に追いやられたりしてしまうかもしれない不安定な状況で、彼は「早く大人になりたい」と願う。

花はさほど美人ではないし、社交的な性格でもない。ただひたすらコツコツと勉強し、難しい子どもたち2人を一人で育てる。「彼」にも頼り切ることはなかったし、誰かに過剰に依存しようとはしない。

やんちゃで目が離せない子と
ひ弱で手が離せない子

そんな年子を、一人で育てるのはただでさえきつい。
「秘密」があるので、近所やママ友などとも疎遠になってしまう。
田舎にいけばなんとかなるというものでもなく、苦労のし通しだったが、黙々と自立しようとする様子が村の頑固じいさんに認められ、徐々に親子の居場所を作っていく。

母親として

どうあるべきか、というようなことを突きつけられる映画だった。

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2012年8月 3日 (金)

おおかみこどもは私のこども

細田守最新作「おおかみこどもの雨と雪」を、娘とレイトショーで鑑賞できた。

私も子供らも忙しい。土日はもちろん平日なんてとてもとても~と、映画館鑑賞が出来るかどうかの状態で、ふと思った。

娘、もう18。
レイトショーいけるんじゃね?

で、会社帰りに待ち合わせして見に行った。


…ああ…これは「私の物語」だ…(滂沱の涙)

いろいろと難しい二人の子を抱えて、夫は…とにかくいなかったので母子家庭状態。
ハナのような苦労まではしていないが、まあいろいろ、育児の苦しみも楽しさも、独り占めしてきた。

ああ、あるある。本当育児ってねえ…
うわあ、きっつい…私ここまで思い切れなかったわあ…
ていうか、ハナさん、高スペックすぎくね?

などと思いつつ、美しい映像、胸キュン、妙に地に足のついたファンタジーを楽しみ、涙してきた。

知り合いの映画館関係者は証言する。

「これは大人の映画。御子様は、始まってすぐに出てくる」

かつて、クレヨンしんちゃん大人帝国の逆襲にあったような、子供よりも大人、それもお母さんに受ける要素満載、ということか…と感じていたが、たしかにそう。

狼男とハナの都会のラブストーリーは、大人には面白くても、子供にはさっぱりだ。

田舎暮らしを始めて、魅力的なシーンが続出するが、雨と雪の成長の意味は、ある程度の年齢でないと理解しがたいだろう。

定点で時の流れを見せる手法も美しく、まさに細田イズム。
人間の世界に積極的になじもうと努力する雪。
人間社会になじめず、ひよわながら自分の道を模索する雨。

ああ、うちの子らがそこにあるわ~ただし貞本デザインの美少年美少女で。

ついでに…えりの伸びたシャツを着た狼男…それ、私の理想のタイプだ。というか、そういう男と結婚したはずだった。
「えっ! おとん、ただのハゲ男じゃん!」と娘に却下されたが、私の中では、ああいう人と結婚したはずなのだ。
ちぃっ!

そしてまあ、幼少時にはひ弱で、ママにべったりとして色白で可愛い息子が不登校になり…と手を焼いていたつもりが、今、大きく羽ばたこうとしている。

「おかん、なめるなよ」

男子って、母親が理解できないくらいの方が健全なのかもしれない。

そんな、あれこれを考えさせてくれる良い映画。
夏休みを終えて、子どもを学校に行かせてから見るのもよろしいかと。

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